元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「シモーヌ」

2009-10-14 06:30:39 | 映画の感想(さ行)
 (原題:Simone)2002年アメリカ作品。才能があるのに売れず、主演女優にも逃げられた映画監督が、苦肉の策で出演させたCGヴァーチャル女優が大人気を博してしまうというコメディ。突っ込みどころは多々あるものの、なかなか気の利いた作品で楽しめた。

 何より「CG俳優が人間を超えるという、未来を予見したハードSF」みたいな大上段に振りかぶらず、話をスノッブな監督の空威張りや、別れたカミさん(プロデューサー)との下世話な関係に集中させているのが楽しい。ヴィクター・タランスキーなる役名も意味深なら、彼が作家性と娯楽性の間で悩み、我が侭なキャストに振り回されながら、100%自分の自由になる俳優を希求するという設定は、監督の個性が中途半端に前面に出て失敗しているハリウッド作品に何度も遭遇している我々観客にとっても“良くわかる話”である。そんなプライドと小心ぶりが表裏一体になった演出家をアル・パチーノが余裕たっぷりに演じている。

 監督アンドリュー・ニコルの出世作「ガタカ」は未見だが、無機質な映像タッチとシチュエーション・コメディとを絶妙の配分で両立させているあたりは感心した。ヴァーチャル女優を演じるレイチェル・ロバーツ(監督夫人らしい)のノーブルな魅力も光る。

 なお、一部で言われている「いずれ普通の人間の俳優もCGに置き換えることが可能になる」との意見は、今のところ実感はない。「ファイナルファンタジー」なんかを観てもわかるが、実物に近づけようとすればするほど、些細な違いが大きく目立ってしまうものなのだ。
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「ポー川のひかり」

2009-10-13 06:21:22 | 映画の感想(は行)

 (原題:Centochiodi )あまりの図式的な筋書きで、愉快ならざる気分になってくる映画だ。イタリアのボローニャ大学が所有する古い文献類が、夏休みを前にした晩に図書館の床に釘付けにされるという事件が起きる。すぐさま警察が捜査に乗り出すが、このあたりの展開はまるで「ダ・ヴィンチ・コード」などの“歴史的文化財をネタにしたミステリー”だ。

 しかし、テンポよく進むのはこの開巻20分ぐらいで、あとは逃走した容疑者の若い哲学科教授の、ポー川のほとりでのホームレス生活(?)が延々と続く。彼はそこで素朴な住民達から“キリストさん”と呼ばれ、彼らの相談相手になったり、その地に無理な公共工事を仕掛けようとする市当局と対立したりする。やがて彼がどうして件の犯行に及んだのかが明らかになってくるが、これがどうも“語るに落ちる”ような話なのだ。

 冒頭にインドから留学していた女性に少しスポットが当てられるが、これは多神教のヒンズー教と一神教であるキリスト教との比較を暗示している。ヒンズー教ではどうであるか知らないが、キリスト教では教義の厳格さ故に、イエス・キリストの教えを教会内や専門家の小難しい理屈や、あるいは古文書類の中に押し込めてきた。つまりはキリストが民衆の身近に存在しない事態になってしまったのだ。よって彼はそれに抗議すべく古い文献に杭を打ち込んだと・・・・こういう筋書きである。

 でも、そんな一般ピープルと特権階級との間に繰り広げられる“宗教の中心点”の綱引きというネタは、よくある構図であって今さら何だという感じだ。しかも、観ているこっちは一神教なんて関係のない、八百万の神々が闊歩する東洋の島国の住民である。ハッキリ言って、全然ピンと来ない。どうでもいい話なのだ。

 監督はかつて「木靴の樹」や「聖なる酔っぱらいの伝説」といった傑作をモノにしたエルマンノ・オルミで、自身最後の劇映画という触れ込みで撮ったシャシンである(今後はドキュメンタリー映画の作家になるらしい)。観る前は期待も高かったのだが、正直落胆してしまった。

 それでも映像面では健闘していて、ポー川流域の風情には心惹かれるものがある。特に、村人達のダンスパーティと川を渡る船上で踊る人々とが交差するシーンは、夢を見ているような美しさだ。ボローニャ大学の佇まいも歴史を感じさせる重厚なもので、改めてこの国には名所・旧跡が数多いことを印象付けられる。
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「ドリアン・ドリアン」

2009-10-12 06:55:00 | 映画の感想(た行)
 (英題:Durian Durian )2000年作品。香港の歓楽街で体を売って稼ぐ中国本土の若い女を描いたドラマ。フルーツ・チャン監督が香港で評価が高い理由は、エンタテインメント一色の香港映画界の中で珍しくシリアスなリアリズム路線(しかもスター俳優抜きで)を取っており、その“孤高ぶり”が一目置かれているからだと思われる。しかし、アジア映画総体で見れば、そういう製作スタンスだけで高評価は得られるとは限らない。少なくとも私は本作を面白いとは思わなかった。

 チャン監督の身上は“香港返還ネタ”であるが、すでに過去3回も同じ題材を扱っており、すっかりマンネリである。確かに香港人にとって中国への返還は重大な事件なのだろうが、いつまでもそこに拘泥していては幅広い映画ファンの共感を得るには至らない。せめて一作ごとにアプローチ方法を変えて多才ぶりをアピールしてもらいたいものだが、この作品も相変わらず“即物的なドラマツルギーと素人起用によるリアリズム狙い”という手法を繰り返すのみ。

 しかも、舞台を中国本土に広げたことによりストーリーが多様性を示しているのに対し、一本調子の演技しかできない素人を何の考えもなく出演させているあたり、まことに迂闊と言うしかない。おかげで語り口に起伏がなくなり、観ていて死ぬほど退屈だった。

 キャストも魅力がなく、得に主演のチン・ハイルーとかいう女は単に“京劇が出来る”というだけで顔も十人並みだし全くスクリーンに映えない。いいかげん、チャン監督は“自然な作劇だけでは映画にならない”という常識に気付くべきだ。
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「のんちゃんのり弁」

2009-10-11 06:55:55 | 映画の感想(な行)

 ヒロインに感情移入が出来ない。主人公はロクでもない男と“衝動的に”結婚し、子供が出来て数年経った後に嫌気がさして家を出るのだが、これまた離婚や慰謝料のことも考えない“衝動的な”行動である。つまりは思慮が浅いのだ。

 ひとまず実家に帰ってはみるものの、彼女はそれまで仕事に就いたことはなく、当然スキルも何もない。就職活動は空振りで、友人から紹介された水商売も一日でクビだ。それでいながら“自分には何かできることがある!”という根拠のないプライドだけは持っているという、何とも付き合いきれない女だ。

 愚かな人間を冷徹に見つめて映画的興趣を醸し出すという手法もあるのだが、作者はそこまで思い切りが良くない。何と、彼女には料理の才能があったのだ・・・・といった、御都合主義的なモチーフを大々的に挿入してしまう。以降、映画はこの“料理が得意”という一点のみで主人公のキャラクターを正当化し、無理なドラマ運びも力ずくで押し切ろうとする。これじゃダメだろう。

 別に彼女は結婚生活において経済的に困窮していたわけではなく、ダンナも暴力をなんか振るっていない。それどころか幼い娘は父親に懐いている。夫が成長しないのならば、自分が精進して何とかすればいい。何もかも放り出してアテもなく家出するなんてのは愚の骨頂だ。

 彼女の性格もそれを反映しているかのように、かなりエキセントリック。気が短く自分勝手で他人のことを思い遣らない。加えて粗暴(笑)。そしてこの傾向は映画の最後まで変わることはない。いったい、作者は何を言いたかったのだろうか。一つぐらい手に職を持てという処世術か。パワーとやる気さえあれば何とかなるという無責任な心情論か。いずれにしても“語るに落ちる”ような図式だ。

 主役の小西真奈美は熱演だが、この役は彼女には合っていない。監督の緒方明は演技の求め方を間違えている。

 ただ、ひとつだけ評価したいのは、出てくる料理が実に美味しそうである点だ。ヒロインの作るのり弁の凝った構造に感心していると、岸部一徳扮する居酒屋の主人が作る料理の数々が目を楽しませてくれる。最近の邦画では「南極料理人」と並ぶメニューの充実ぶりだ。それを目当てにすれば、作劇の不手際も何とか我慢が出来る・・・・わけもないが(笑)、観賞後はのり弁が食べたくなるのは確かである。
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「ぼくんち」

2009-10-10 06:56:15 | 映画の感想(は行)
 2003年作品。貧しくも逞しく生きる“姉弟”と、周囲の人々との触れ合いを描いたドラマ。製作コンセプトからどこかボタンが掛け違っているような映画だ。西原理恵子による原作漫画は未読だが、おそらく登場人物たちの貧乏ぶりを突き詰めていくことにより、乾いたユーモアの次元にまで昇華させているのだろう。それを可能にしたのは、西原独特のスカスカしたコマ割りと単純化されたキャラクターの玄妙さであるのは想像に難くない。

 ところがこれを実写映画にすると困ったことが起きる。たぶん原作の中では巧みに抽象化されていたであろう“貧乏くささ”が、ここではリアリズムとして提示されてしまうのだ。主人公たちの小汚くて惨めな生活がそのまんま映し出されると、観客としては“引く”しかない。

 もちろん、そのへんは監督の阪本順治も承知していたらしく、観月ありさや鳳蘭といった“やや浮世離れした素材”をキャスティングしたり、脇の登場人物を極端にカリカチュアライズさせたり、終盤には鈴木清順や寺山修司を思わせるような前衛的テイストも織り交ぜ、何とかリアリズムからの脱皮を図ってはいるのだが、いずれも不発。

 おかげでラストに主人公たちがすするラーメンが“文字通りの、ただ不味いだけのラーメン”になり、何の暗喩にも象徴にもならなくなっている。撮影がロケ主体であるのも間違いで、ここはスタジオで人工的セットを作るか、思い切って全編アニメーションにするべきだった。なお、子役の二人は非常に達者。
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「ポチの告白」

2009-10-09 06:19:53 | 映画の感想(は行)

 まず、本作の語り口には考えさせられた。この映画の上映時間は3時間15分もある。しかしストレスもなく最後まで観ることが出来た。通常、こういう長尺の映画を作る場合は、作家性を前面に押し立てたような心象風景的なショット(それも、通常は長回し)を多用するか、あるいは観客を退屈させることを回避するためにやたら見せ場を連続させるか、そのどちらしかないと思っていた。しかし、この作品は違うのだ。

 フィルム撮りではないこともあるが、作劇がとてもテレビ的だ。あるいはVシネマに似ていると言っても良い。高橋玄の演出タッチは平板であるが、決して一本調子ではない。適度に起伏を持たせ、観る側が肩に力を入れないような匙加減をキープしている。連続ドラマの一挙放映にも通じるものがあり、観ていてラクである。こういう作り方もあるのかと、けっこう感心してしまった。

 さて、展開は淡々としているようでいてこの映画のテーマは凄く重い。真面目な警官が上司の誘いで悪の道に染まっていくまでを描くのだが、従来の“悪徳警官もの”と決定的に違うのは、阿漕なことをやっているのは一部の警官だけではなく、全員がそうであることを鮮明に描いている点だ。

 憂さ晴らしに職務質問して、罪状をデッチあげると脅し、ヤクザまがいに金品を巻き上げるのは序の口。架空捜査での特別手当の割り増しや裏金造りなんて日常茶飯事で、果ては暴力団の麻薬や銃器類の取引に立ち会って“監視人”としての手数料を要求したりする。もちろん、警察内での不当な行為を監視するセクションも存在するのだが、それによって摘発されるのは組織にとって煙たい人物か“トカゲの尻尾切り”よろしく罪を被せられたスケープゴートのみ。

 司法に至っては完全に警察とグルで、捜査終了段階ですでに“量刑”も決まっているのだ(このあたりは周防正行監督の「それでもボクはやってない」と同様である)。特定の誰かが悪いわけではない。組織としてそういう“構図”が染みついてしまっているのだ。

 ただし、ここで描かれていることが事実かどうかは、普段は警察の御厄介にならずに生きている一般市民にとっては判然としない。だが、そこに大きな説得力を持たせているのは、劇中でのマスコミの扱いである。何の問題意識も持たず、記者クラブで警察の発表する資料を漫然と流しているだけ。警察を批判すると情報をもらえなくなるので、御機嫌伺いに必死だ。

 マスコミの言い分をチェックしてみれば、誰だってそんな歪んだ図式の存在に思い当たる。権力を牽制すべきマスコミがこの体たらくでは、映画で描かれている警察の腐敗が事実でもおかしくないと合点してしまう。題名の「ポチ」とは主人公のことではなく、マスコミなのだ。

 主演の菅田俊をはじめ野村宏伸、川本淳市、井上晴美と派手さはないが堅実なキャスティングも評価したい。そして何より、日本映画で初めて外国人記者クラブの協力を得たことは特筆できる。たった五つの全国紙にテレビや雑誌も含めて収斂してしまう我が国の不可解なマスコミ事情を強調する意味で、実に効果的だった。
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「ウインドトーカーズ」

2009-10-08 20:38:57 | 映画の感想(あ行)
 (原題:Windtalkers)2001年作品。第二次大戦下のサイパンを舞台にして、米軍の白人兵士とネイティヴ・アメリカンの通信兵の交流を描いた異色戦争映画である。結論から言えば、つまらん映画だ。

 ニコラス・ケイジ扮する軍曹とナバホ人兵士との関係を軸にした“男の世界”はジョン・ウー監督にとって得意なネタのはずだが、焦点の定まらない八方美人的な脚本がすべてをブチ壊す。余計なエピソードが多すぎ、しかもそれが切れ切れにバラ撒かれているせいで一向にドラマが盛り上がらない。加えて人物描写が薄っぺらでは出るのはアクビばかりである。

 肝心の活劇場面も、激戦地サイパンが舞台ではいつもの“ここ一番のタメ”を形作るヒマもない。第一、ただ漫然とドンパチを描かなければならない映画をウー監督に撮らせること自体が問題である。それにしてもこの映画、いったいどこでロケしているのだろう。南の島とはとても思えぬ湿度希薄な風景は、メル・ギブソン主演の「ワンス・アンド・フォーエバー」と同様、撮影所の裏山で撮ったと勘ぐられても仕方がない。

 そしてニュースフィルムにヘタなCGをドッキングさせた安っぽい画面も願い下げだ。もちろんハリウッド名物“えせ日本”も満載で、観る価値は限りなく低い。
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「男と女の不都合な真実」

2009-10-07 06:29:30 | 映画の感想(あ行)

 (原題:The Ugly Truth)最近観た映画の中では一番笑える。筋書き自体は使い古されたものだが、ネタの振り方やギャグの扱いが実によく考えられており、何よりキャラクター設定に伴う俳優の動かし方が絶妙だ。退屈なくすぐりに終始しがちなハリウッド製ラブコメの中にあっては、なかなかの存在感を持つ作品である。

 サクラメントのローカルTV局でプロデューサーを務めるヒロインは、仕事は出来るものの、救いようがないほどの恋愛下手。地道に婚活に励んではいるが、今日も冴えない野郎と“お見合い”をするハメになり、思いっきり落ち込んで帰宅したところにテレビ画面で目にしたのは、男の本音を剥き出しにするとの触れ込みで好き勝手な暴言を吐く傍若無人なコメンテーター。大いに気分を害した彼女だが、翌日その彼が彼女の番組の新パーソナリティとして採用されているのを知って愕然とする。

 反発し合う二人だが、やがて互いを憎からず思うようになってハッピーエンドになるんだろうなあ・・・・と思っていると、見事にその通りになる(笑)。彼女の側にもう一人イイ男が言い寄ってくるってのも定石通りで、大昔からさんざん作られてきたスクリューボール・コメディのルーティンを愚直なまでに守っている。ただし、繰り出されるお笑いの数々はこれ以上ないと思われるほどに下品だ(爆)。

 徹底した下ネタのオンパレードで、放送禁止用語もてんこ盛り。ハダカが出てこないのにR-15指定になったのも頷けるが、下卑た笑いのわりには繰り出し方や見せ方に関して細心の注意が払われており、弛緩した部分がない。内容とは裏腹に、監督のロバート・ルケティックの演出スタイルはけっこうスマートである。

 主役を演じるキャサリン・ハイグルとジェラルド・バトラーは絶好調。ハイグルは今のアメリカ人の女優では最も美人の部類に入る。容姿がキレイであるばかりでなく、品が良い。だからこそ、お下劣なネタをこなしても決して汚らしくはならない(これが、品のない女優がやると目も当てられない結果になっただろう)。バトラーも、粗野でガラッパチな野郎を実に楽しそうに演じている。最後にしおらしい様子を見せるのも効果的だった。

 難を言えば、ヒロインが夢中になる男に扮するエリック・ウィンターにもうちょっと存在感が欲しかった。悪くはないのだが、単なる人当たりの良い二枚目という域を出ていない。強い個性を付与してバトラーと張り合うようなシークエンスを設けたならば、さらに盛り上がっただろう。

 とはいえ、劇場内は絶えず笑いに包まれ、観賞後の満足感は相当なものだ。カリフォルニアの陽光に照らされたような、明るく澄んだ色調をメインとする映像も要チェックである。
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「フロム・ダスク・ティル・ドーン」

2009-10-06 06:25:23 | 映画の感想(は行)
 (原題:From Dusk till Dawn )96年作品。危険な極悪犯罪者コンビ、セス(ジョージ・クルーニー)とリチャード(クエンティン・タランティーノ)の兄弟は脱獄から銀行強盗を経て、人質を取ってのメキシコへの高飛びをたくらむが、荒野の真ん中で立ち寄ったキャバレーがなんと吸血鬼の巣。人質の親子(ハーヴェイ・カイテル、ジュリエット・ルイス)も巻き込んでの血を血で洗う大激闘が始まる。ロバート・ロドリゲスがタラン氏の脚本を映画化。公開当時は全米第一位を記録した話題作だ。

 とにかく仰天したのが、タラン氏得意のクライム・アクションの前半と、「ブレインデッド」の姉妹編みたいな後半に何の脈絡もないことだ。上映時間109分のうち、丁度半分ずつこのパートに分かれている。前半はかなり陰惨な話だ。タラン氏自身は残念ながら役に合っているとは思わないが(役者稼業は脇役にとどめてほしい)、相手に言いがかりをつけて殺すシーンや、人質のオバさんを惨殺する場面は異常さたっぷり。兄に対する屈折した愛情もうかがえ、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」の中身のない殺人カップルとは違うところを見せる。

 殺しの血の描写や妻を亡くして神を信じなくなったカイテル扮する元牧師などが後半の吸血鬼ネタの伏線となっているとも言えなくもないのだが、このまま犯罪ロードムービー路線で行ってもおかしくない。しかし、なぜか後半はスラップスティックに展開し別の映画になってしまう。こんな風に続く必然性は何もないし、通常のドラマツルギーを完全に無視している。

 では焦点の定まらない失敗作かというと、これがけっこう面白いのである。“偶然性によるドラマの解体”などの面倒くさい映像論を持ち出す人もいるだろうが、これは単純に“前半のままじゃ暗いから後半はおちゃらけてしまった”という作者の気分の問題でしかない。このいいかげんさがタラン氏とロドリゲスのコンビでは許されてしまったと・・・特にロドリゲスの「エル・マリアッチ」の八方破れさに追随しているのは「デスペラード」ではなく、こっちの方であった。

 後半のいかがわしいキャバレーの様子から血みどろバトル・シーンにいたるジェットコースター的展開は、観ていてムチャクチャ楽しい。効果的なギャグの挿入やアクションの呼吸の妙、意外性に富んだ立ち回り、スプラッタ度も満点で、まさに爆笑の連続。犯罪者コンビを描くはずが、終わってみれば目立っていたのはジュリエット・ルイスで、この一貫性のなさも“いいじゃん、面白ければ”の軽いノリで納得させてしまうのが、作者の“勢い”ってやつだろう(^^)。
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「セブンデイズ」

2009-10-05 06:31:45 | 映画の感想(さ行)

 (英題:Seven Days)少々荒っぽい作りだが、重大なテーマを内包している点は評価して良い。韓国の法曹界で“勝率が限りなく100%に近い”と言われる凄腕の女弁護士の幼い娘が誘拐されてしまう。犯人は“翌週行われる凶悪事件の裁判で、死刑が確実視される被告を無罪にしろ!”という理不尽な要求を突きつける。もしも有罪になってしまえば娘の命はない。映画は判決が下されるまでの7日間をサスペンス・タッチで追う。

 まず疑問に思うのは、無罪を勝ち取るために脅迫するのならば、弁護側ではなく検察関係者ではないかということだ。何しろいくら主人公が有能な弁護人とはいえ、判決が誘拐犯の思い通りになるとは限らないのだから。しかし、本作はあえてその掟破りのような設定を採用している。その理由が明かされるラストはかなり衝撃的だ。

 ここで考えさせられるのは、司法制度における刑罰の意味である。犯した罪の重さによってペナルティが課せられるのは当然のことであり、死刑はその中でも究極の方法である。しかし、重大な犯罪に手を染めた人間のクズのような奴が死刑になったところで、そいつによって迷惑を被った無辜の市民の苦しさと悲しみは相殺されるのだろうか。

 犯人がこの世から居なくなっても、犠牲者は返ってこない。死刑を超える刑罰は存在しない。だが、犯罪の凶悪度は広げようと思えば限りなく広がるのだ。これに対して司法が提示するペナルティは“死刑”がリミットである。この加害と被害とのアンバランスに関して司法は何が出来るのだろうか。本作の終盤の展開は、そういう不条理的な状況に対して激烈な抗議を試みているようだ。この主題を織り込んだ点だけでも、この映画を観る価値はある。

 ウォン・シニョンの演出は、エグい描写とケレン味あふれた映像ギミックを数多く挿入しているあたり、デイヴィッド・フィンチャー監督の「セブン」を相当意識している。ただし、暗闇の中を手探りで歩くような見通しの付かない焦燥感の表現は「セブン」より上だ。これ各登場人物が抱く切迫性が(頭の中だけで考えたような「セブン」とは違って)より高い普遍性を獲得しているためだろう。

 ヒロイン役のキム・ユンジンは一時期アメリカでテレビシリーズに出演して人気を獲得し、今回久々に故国での仕事になったが、前の「シュリ」や「RUSH!」の頃よりも垢抜けてきた。演技面だけでなくセクシーさも一皮剥けたようだ(笑)。共演のパク・ヒスンやキム・ミスクも手堅い。後半には辻褄の合わない点がけっこう出てくるが、それが気にならないだけの作劇面での迫力がある。観る価値は十分にある佳篇だ。
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