猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

ビバリウム

2021-03-23 22:50:33 | 日記
2019年のアイルランド・ベルギー・デンマーク合作映画「ビバリウム」を観に
行った。

トム(ジェシー・アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン・プーツ)は新居を探し
ている若いカップル。ある日2人はふと入った不動産会社でマーティン(ジョナ
サン・アリス)という社員に「ヨンダー」という新興住宅地を紹介され、見学に
行くことになる。ヨンダーは全く同じデザインの家が整然と建ち並んでおり、辺
りは静かでひと気もなく、別世界のよう。トムとジェマはマーティンに9番の家
を紹介され中に入るが、見学している途中でマーティンはいつの間にか姿を消し
てしまう。不審に思った2人は帰ろうとするが、道に迷ってしまう。どのルート
を辿っても、9番の家の前に戻ってきてしまうのだ。そのうち車がガス欠になり、
仕方なく2人は9番の家で一夜を過ごすことに。そして翌朝家の外に出ると、玄
関前に段ボール箱が置かれており、中には男の赤ん坊が入っていた。

不条理ホラーというのだろうか、「観ていたら頭がおかしくなりそう系」のホラ
ー映画である。監督はロルカン・フィネガンというアイルランドの人で、とても
おもしろかった。段ボールの中に赤ん坊が入れられているのを見つけたトムとジ
ェマは愕然とし、トムは何とかヨンダーの出口を探そうとして屋根に登る。しか
し家々はどこまでも果てしなく続いており、その光景にまた驚く。車が使えなく
なった2人はひたすら歩くが、どうしても9番の家に戻ってしまう。携帯電話も
圏外だ。飛行機はおろか鳥さえ飛んでおらず、まるでヨンダーの街に閉じ込めら
れたかのようだ。出られなくなった彼らには9番の家に住み赤ん坊を育てるしか
道はなかった。段ボールには「育てれば解放される」と書かれていた。
とても奇妙な映画である。そしてトムとジェマの状況を考えると恐ろしい。赤ん
坊が大きくなったら解放されるのだろうかという微かな望みを抱いて彼らは育児
をする(させられる)が、その子供がまた奇妙だった。すごいスピードで成長し、
98日後には7歳児ほどの体型になる。そして大人の声でしゃべった。奇声を発し
たり家の中を走り回ったり、トムとジェマの言葉や仕草を真似したり、彼らには
理解できない訳のわからない画像が映ったテレビをじっと観ていたりする。トム
たちは次第に心身共に疲弊していく。
冒頭でカッコウの托卵のシーンが映し出されるのだが、これが重要な意味を持っ
ており、トムとジェマはまさに托卵させられているのだ。そしてビバリウムとい
うのは「生物の生息環境を再現した飼育・展示用の容器」という意味であるらし
く、映画のタイトルとカッコウのシーンで物語の内容が暗示されていることにな
る。この映画は他にも伏線というか暗示的な描写が多くて、とても興味深い。子
供がトムたちの言葉を真似しているのにも意味があった。そういえば不動産業者
のマーティンもジェマの発言を真似しているシーンがあって、ジェマは変な顔を
するのだが、これも同様である。子供はジェマをママと呼ぶが、ジェマは「私は
あなたのママじゃない」とイラつきながら言う。そして子供はあっという間に青
年へと成長する。
トムは自分の仕事を見つけたかのように庭の穴掘りに熱中する。寝食を忘れ、取
り憑かれたように。そうでもしないと生きていけないのだろう。私がトムたちの
状況におかれたら、気が変になってしまうかもしれない。ヨンダーの家はどれも
同じ緑色の家で、それが果てしなく並んでおり、まるでシュールレアリスム絵画
のようである。シュールレアリスム絵画は好きだが住むのはお断りだ。トムとジ
ェマは衰弱していくが、彼らを9番の家に閉じ込め、子供を育てさせた"何か"の
正体は明かされないままだ。そしてトムがしていた穴掘りも重要な意味を持って
いたのが後にわかる。ラストは衝撃的で、非常に後味が悪い。とても怖くておも
しろい映画だった。


私の隣で一緒に布団に入って寝ているノエル。

コメント (8)
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