2020年の韓国映画「声もなく」。
口のきけない青年テイン(ユ・アイン)と片足を引きずる相棒チャンボク
(ユ・ジェミョン)は、普段は鶏卵販売の仕事をしながら、犯罪組織から
死体処理などを請け負って生計を立てていた。ある日、テインたちは犯
罪組織のヨンソク(イム・ガンソン)に命じられ、身代金目的で誘拐され
た11歳の少女チョヒ(ムン・スンア)を1日だけ預かることになる。チョ
ヒの父親は身代金を出し渋っていた。しかしヨンソクが組織に始末され
てしまったことから、テインとチョヒの疑似家族のような奇妙な生活が
始まる。
サスペンスだが人間ドラマの側面もある悲しい物語。冒頭から口のきけ
ない青年テインと相棒のチャンボクの興味深いシーンから始まる。どこ
かの建物内で2人はレインコートを着て、ビニールの帽子をかぶり、ビ
ニールの手袋を身につけ始める。そこには血だらけになった男が吊るさ
れている。彼らはその男の下にビニールシートを手際良く広げていく。
吊るされている男を包むためだ。そして彼らは男を包むと、どこかへ埋
めに行く。テインとチャンボクは表向きは卵の販売をしながら、裏では
こうして犯罪組織から死体処理を請け負っているのだ。
そのシーンを観ていて、韓国映画お得意の血生臭い物語になるのかと思
っていたら、違う雰囲気になっていく。テインとチャンボクは身代金目
的に誘拐した人を1日だけ預かれと言われ、その場所へ出向くと、そこ
にいたのは11歳の少女チョヒだった。チャンボクは「子供だなんて聞
いてないぞ」と戸惑う。仕方がないので彼らはチョヒをテインの家に連
れていく。家と言っても何もない田舎にぽつんと建っている小屋のよう
なものである。韓国映画は本当に底辺に生きる人々をよく描くなあ、と
思う。テインとチャンボクは底辺も底辺、最下層の人間だ。死体処理の
仕事で生計を立てているのだから。
チョヒは誘拐犯たちが本当は弟を誘拐する予定だったのが、間違えて姉
を誘拐したのだった。そのため親は身代金を出し渋っているのだった。
それを知ったチャンボクは「同じ子供なのにひどいな」と言う。テイン
もチャンボクも根は悪人ではないのだ。日本でも年配の人だと女の子よ
り男の子を優遇するような人はまだいるようだが、韓国社会も同じなん
だな、と思った。チョヒの親は誘拐されたのが息子だったらすぐに身代
金を払っていただろう。チョヒは何となくそれを察していて、「パパは
お金を払ってくれるかな」と言っている。
この、チョヒが察しているところが悲しい。チョヒは家で弟の方が大切
にされていることを感じているようだ。きっと親に嫌われないようにと、
行儀良くいい子にしているのだろう。テインたちの前でもチョヒはおと
なしい。チョヒは家に居場所はあるのだろうか、と思った。テインは口
がきけないので、テイン役のユ・アインは表情や仕草で感情を表現しな
ければならない。それがとてもうまい。テインは底辺の人間で、チョヒ
は裕福な家の子供。生活環境はまるで違うが、2人には何か心で感じ合
うものがあるのではないだろうか。
チョヒの父親はなかなか身代金を払わず、テインとチャンボクのボスで
あるヨンソクが殺されてしまったため、彼らはどうすればいいのかと困
ってしまう。彼らは誘拐には直接関わっていないのだ。テインとチョヒ
の間には次第に兄妹のような不思議な感情が芽生えていく。逃げ出せる
隙はあっても1人では帰れないチョヒにとって、頼れるのはテインだけ
なのだ。けれども2人の間に通う温かい感情のままでは終わらない。ラ
ストはやっぱりそうなるんだな、という感じ。孤独な青年であるテイン
の、最初から最後まで悲しい物語だった。とてもおもしろかった。
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口のきけない青年テイン(ユ・アイン)と片足を引きずる相棒チャンボク
(ユ・ジェミョン)は、普段は鶏卵販売の仕事をしながら、犯罪組織から
死体処理などを請け負って生計を立てていた。ある日、テインたちは犯
罪組織のヨンソク(イム・ガンソン)に命じられ、身代金目的で誘拐され
た11歳の少女チョヒ(ムン・スンア)を1日だけ預かることになる。チョ
ヒの父親は身代金を出し渋っていた。しかしヨンソクが組織に始末され
てしまったことから、テインとチョヒの疑似家族のような奇妙な生活が
始まる。
サスペンスだが人間ドラマの側面もある悲しい物語。冒頭から口のきけ
ない青年テインと相棒のチャンボクの興味深いシーンから始まる。どこ
かの建物内で2人はレインコートを着て、ビニールの帽子をかぶり、ビ
ニールの手袋を身につけ始める。そこには血だらけになった男が吊るさ
れている。彼らはその男の下にビニールシートを手際良く広げていく。
吊るされている男を包むためだ。そして彼らは男を包むと、どこかへ埋
めに行く。テインとチャンボクは表向きは卵の販売をしながら、裏では
こうして犯罪組織から死体処理を請け負っているのだ。
そのシーンを観ていて、韓国映画お得意の血生臭い物語になるのかと思
っていたら、違う雰囲気になっていく。テインとチャンボクは身代金目
的に誘拐した人を1日だけ預かれと言われ、その場所へ出向くと、そこ
にいたのは11歳の少女チョヒだった。チャンボクは「子供だなんて聞
いてないぞ」と戸惑う。仕方がないので彼らはチョヒをテインの家に連
れていく。家と言っても何もない田舎にぽつんと建っている小屋のよう
なものである。韓国映画は本当に底辺に生きる人々をよく描くなあ、と
思う。テインとチャンボクは底辺も底辺、最下層の人間だ。死体処理の
仕事で生計を立てているのだから。
チョヒは誘拐犯たちが本当は弟を誘拐する予定だったのが、間違えて姉
を誘拐したのだった。そのため親は身代金を出し渋っているのだった。
それを知ったチャンボクは「同じ子供なのにひどいな」と言う。テイン
もチャンボクも根は悪人ではないのだ。日本でも年配の人だと女の子よ
り男の子を優遇するような人はまだいるようだが、韓国社会も同じなん
だな、と思った。チョヒの親は誘拐されたのが息子だったらすぐに身代
金を払っていただろう。チョヒは何となくそれを察していて、「パパは
お金を払ってくれるかな」と言っている。
この、チョヒが察しているところが悲しい。チョヒは家で弟の方が大切
にされていることを感じているようだ。きっと親に嫌われないようにと、
行儀良くいい子にしているのだろう。テインたちの前でもチョヒはおと
なしい。チョヒは家に居場所はあるのだろうか、と思った。テインは口
がきけないので、テイン役のユ・アインは表情や仕草で感情を表現しな
ければならない。それがとてもうまい。テインは底辺の人間で、チョヒ
は裕福な家の子供。生活環境はまるで違うが、2人には何か心で感じ合
うものがあるのではないだろうか。
チョヒの父親はなかなか身代金を払わず、テインとチャンボクのボスで
あるヨンソクが殺されてしまったため、彼らはどうすればいいのかと困
ってしまう。彼らは誘拐には直接関わっていないのだ。テインとチョヒ
の間には次第に兄妹のような不思議な感情が芽生えていく。逃げ出せる
隙はあっても1人では帰れないチョヒにとって、頼れるのはテインだけ
なのだ。けれども2人の間に通う温かい感情のままでは終わらない。ラ
ストはやっぱりそうなるんだな、という感じ。孤独な青年であるテイン
の、最初から最後まで悲しい物語だった。とてもおもしろかった。
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