太平洋と私
太平洋のことは、ずっと気になっていた。
太平洋は、地球に七つある大洋の中でも最も大きい、世界一の海だ。
日本列島は、その太平洋の西の端に浮かんでいる。
太平洋は、
歴史を紐解いても、実際の生活においても、
日本人にとって、最もつながりの深い海だ。
かつて私は、帆船に乗って日本とハワイを往復した。
ロサンジェルスからホノルルまでのヨットレース、ホノルルレース(通称トランスパック)にも2度参加した。
しかし、北米大陸から日本まで一息に、太平洋を東の端から西の端まで一気に渡ったことが一度もなかった。
日本人セーラーである自分としては、そのことが、とても気に入らないことだった。
つまり、日本人にとって最も身近な海である太平洋を、
日本人セーラーのくせに、
セーリングでまだ渡った経験が自分にないことが、
喉に引っかかってなかなか取れない魚の小骨のように、気障りなことだったのだ。
2005年の11月から、
パブリシティーの仕事と、将来の大型レース艇建造プロジェクトの勉強のために、
いくつかのストップオーバーに寄航しながら地球を1周する外洋ヨットレース、
ボルボ・オーシャンレースの参加艇たちを追いかけて、
スペイン、オーストラリア、イギリス、スウェーデンに向かった。
大海原に向って雄々しくスタートしていき、
人々が熱烈に歓迎する中を晴れ晴れとした表情でフィニッシュしてくるボルボ・オーシャンレースのセーラーたちは、
自分の若い友人たちであるにも関わらず、
とてもカッコよく、とても眩しく見えた。
そんな彼らを観る側にまわっている自分が、
取り残されてしまったように思えてならなかった。
太平洋横断世界最短記録に挑戦するフランスのトライマラン(三胴艇ヨット)、
〈ジェロニモ〉から、
クルーとして乗らないか、という誘いを受けたのは、
そんな心理状態のときだった。