ポリネシア航海学会のパルミラ環礁航海(その5)

2009年12月14日 | 風の旅人日乗
                  【photo copyright/Samuel Monaghan】


ここまで、〈ホクレア〉を曳航するために〈ホクレア〉の前を走っていた〈カマヘレ〉は、
ここからは、〈ホクレア〉の斜め後ろの位置に付いて、
〈ホクレア〉に何かトラブルや必要としているものがない限り、〈ホクレア〉の前に出ることはない。
ここからの針路は〈ホクレア〉が決めるのであり、
例えそれがハワイ島と正反対の方向であっても、〈カマヘレ〉は黙ってそれに付いていく。

〈カマヘレ〉から離れて曳航索を取り込み、2枚のセールを揚げた〈ホクレア〉は、
大きなうねりの中を、ある方向にピタリと針路を定めてセーリングを始めた。
〈カマヘレ〉のオートパイロットを操作して、
〈ホクレア〉の斜め後ろを、〈ホクレア〉と並行して走るコースに乗せる。
それからGPSのモニターに目を移し、画面の縮尺を小さくしていくと、
〈カマヘレ〉の船首が向いている方向を示す点線の先が、800海里も遠くにあるハワイ島の東側、ヒロ沖に向かって延びていた。
この日2度目の、鳥肌が立った。


【photo copyright/Samuel Monaghan】

神業としか思えなかった。
陸上ではビールも飲み、冗談も言い、2人の子どもの優しいパパである普通の人間のブルース・フランケンフェルドには、
800海里先のハワイ島が見えているのだ。
本の中でしか知らなかった奇跡のような航海術を、この目で見ることになった。

〈ホクレア〉はパルミラ環礁を出る前に、
ポリネシア伝統型のクラブクロウ・セール(蟹の爪のような形の、セール上部のエリアが大きいセール)をマストからはずし、
一般的なヨットのような三角形のセールに換えている。

クラブクロウ・セールは、どちらかというとダウンウインド用のセールで、
そして取り扱いがとても難しいセールなのだという。


【copyright/Polynesian Voyaging Society】


【copyright/Polynesian Voyaging Society】


それに対して、トライアングルセールと呼ばれているセールは、
よりオールラウンドで扱いやすく、風に切り上がる性能もいいのだという。

15ノットほどの横風で〈ホクレア〉の艇速は7ノットを越える。
ハワイの緯度に近づいて貿易風の風速が27ノットを越えるようになると、
強力なエンジンを載せた45ftスループの〈カマヘレ〉でもまったく追いつかなくなる。


【photo copyright/Samuel Monaghan】

並走できなくなるので分からないが、恐らく最高10ノット前後のスピードが出ているのだと思う。
その〈ホクレア〉でも、ハワイ島のセーリングカヌー〈マカリイ〉や、
新しくハワイ島で造られて2007年にミクロネシアのサタワル島にプレゼントされた〈アリンガノマイス〉のスピードには、
まったく敵わないのだという。
(続く)