海のゼロエミッションへの挑戦、Wind Challenger計画

2009年12月15日 | 風の旅人日乗
                       【photo copyright/Ken Ando】


風のエネルギーだけで船舶を運行するという夢の実現に向けて、本格的な研究がスタートしている。

東京大学JIPプロジェクトWind Challernger計画。

この計画は、分かりやすく言うと、
二酸化炭素排出量ゼロの、現代技術を取り込んだ新時代の帆船とも言える次世代風力推進船を開発することを目標としている。
先週、その計画推進チームが主催するミニシンポジウムが
東京大学本郷キャンパスで開催された。

このシンポジウムの開催趣旨は、海運造船における新技術開発戦略の研究と人材の創出目指すとともに産学連携の輪を拡げていくこと。
その開催趣旨のもと、風を100%利用する大型の風力推進船を実現する可能性を
さまざまな角度から探っていこうというシンポジウムだから、
セーリングファンにとって面白くないわけがない。

「もう日本には未来なんてない、とでも言いたいのか!」と言いたくなるようなニュースばかりが好んで巷に流され、
それらの話題に触れると心の中や背中が寒々としてきて困っていたのだけれど、
このシンポジウムの会場は未来への希望に溢れていて、
冷え切った戸外から帰ってきたあと、温かくてちょっと甘いカフェオレを飲んだときのように、心と体がほんわかと温められた。

大好きな海と風と船が、人間の未来を明るく開いていく可能性とその現実的な方法論について
参加者たちみんなが熱く意見を述べ合っているのだから、そういう場所の居心地が悪いわけがないのだ。
海には、セーリングには、未来があるのだ、と確信しましたね。

そのシンポジウムではワタクシも、最先端の外洋ヨットの現状と技術について、
一般の船舶関係の研究者や技術者の方々、そして今まさに最先端の船舶や海運について勉強中の学生さんたちの前で説明する機会をいただいた。


【copyright/Volvo ocean Race】


【photo copyright/Rick Tomlonson/Volvo ocean Race】


【photo copyright/Banqui Populaire】


【photo copyright/BMW Oracle racing】

セーリングの実際を、一人でも多くの人に知ってもらいたいと一生懸命やったつもりだけど、熱意は伝わって行っただろうか…。

ま、それはともかく、そのほかのパネリストの皆さんたちのお話がまた、
すごく面白かった。
シンポジウムの司会進行を担当した東大のU先生、カーボン素材の未来を語ったKG社長、セーリングを科学的に分析する方法を紹介したKMセールデザイナーとは、
2000年のアメリカズカップ挑戦のときの、毎朝毎夕のチームミーティング以来10年振りくらいで椅子を並べて座った。
アメリカズカップのチームメイトだった人間たちが、
この、風で走る未来の大型船舶について話し合う場で再び一緒に揃ったことも、
なんとはなしに、うれしいことだったなあ。

そしてさらには隣の椅子には、一応ワタクシの大学の後輩だが、練習帆船海王丸の偉大なA船長も座っていて、大学の入寮コンパのときには紅顔可憐の美少年だったA船長のことなど、フト思い出して楽しんだりもした。


【photo copyright/Ken Ando】


臭い煙も出さず、うるさいエンジン音もしない未来型帆船が、物流の主役になって世界の海を走る光景が、近い将来に必ず現実のものになることを祈りたい。
そうなればきっと、そういう船に乗りたくなる若者たちも増えることだろう。




シンポジウムの後は、夕方から丸の内で、ヨーロッパ諸国の観光局が連合で主催するメディアデイ・パーティー。
昨年と今年に世に出た、ヨーロッパの観光業に最も貢献したウエブサイト・雑誌記事・TV番組を表彰するパーティーだ。



南トルコのエーゲ海チャーターヨットクルーズを題材に作った雑誌企画が
ありがたいことにノミネートされていたため、貴重な御招待状をいただいたのだった。
ヨーロッパ各国のワインと料理がずらりと並んでいるのが魅力のパーティーである。

結局グランプリはもらえなかったけれど、グランプリを受賞したのは素晴らしい作品ばかりで、
ノミネートされただけでもありがたいことだと分かった。








あの、「兼高かおる世界の旅」の兼高かおるさんが審査員の一人として会場にいらっしゃったこともうれしかった。
お幾つになられたのかは知らないが、まだまだとてもお美しいお姿でした。
TV番組部門で受賞した「旅サラダ」の旅人・岩崎宏美さんも、パーティー会場でお見掛けした。

海で働けて、しかも仕事で海外にも行けるからという理由で船乗りを目指して商船大学に進もうと子どもの頃に考えたのは、
「兼高かおる世界の旅」と加山雄三さん(の映画)の影響だった。
そうして、仕事としてセーリングの道に進むことを最終決心することになった大学4年の東京-九州おんぼろヨット航海のとき、
最後の寄港地になった瀬戸内海の広島の小さな港の食堂で、
予算の残りを使い切った食事を済ませて席を立とうとしていたら、
その席の前に置いてあったテレビの中で、
「あなたお願いよー、席を立たないでー」って、岩崎さんが歌っていたんだったよなあ。

なんだか、自分の中の過去と未来が一つに繋がったような、不思議な一日だった。