ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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ヤン・イクチュン監督が精魂傾けて作った映画「糞バエ(息もできない)」

2010-03-27 02:00:44 | 韓国映画(&その他の映画)
 一昨日、シネマライズへ「息もできない」を観に行く電車内で、買ったばかりの「週刊文春」のシネマチャートを見て目をみはりました。俎上の映画がちょうどコレで、あれまあ、というほどの★の数の多さ。品田雄吉だけ★4つで、中野翠、芝山幹郎、斎藤綾子も、いつも首をかしげたくなるおすぎまで★5つ。
 合計★24個。今年に入って抜群のトップどころか、年間でもトップの可能性が高いでしょう。各氏の寸評もフツーじゃないゾ、という感じです。

 そういえば、2週間ほど前、ニッポン放送の朝番組お早うGood Dayの中で、「まだ3月ですが、2010年私、松崎まことの“ベスト1”候補!!」と、映検1級の放送作家氏が熱っぽく薦めていたのもこの映画でした。

 しかし、松崎まことさん自身「決して万人向けの映画ではありません」というように、専門家筋が高評価でも一般的な人気、興行成績に必ずしも直結しないのが映画。実際のところ、映画関係サイトの評価を見ると、「ぴあ」の調査による3月19・20日公開映画の満足度ランキングではトップでしたが、その後は最上位クラスというわけでもないようです。

 シネマライズでは、館内中央やや後ろ目の一番観客密度が高いあたりでも両隣に空席があるくらいでした。これから文春効果で増えるかどうか・・・。

 この映画の原題は「トンパリ)」(똥파리)、つまり「糞バエ」」。
 <トン(똥)>=<糞>は韓国ではよく使われる言葉です。
 しかし、さすがに日本では抵抗感があるとの判断でしょう。「息もできない」と苦心の命名。
 いくつかのブログで、異口同音に「タイトル通り<息もできない>展開の作品」とあるし、苦心の甲斐はあったというべきでしょうね。まあ、私ヌルボは直截的に「糞バエ」でピッタリだと思いますが。

 しばらく前にヌルボが少し驚いたのは、まず韓国版のポスター(下の写真)を見て、次にこのいかにもというべきチンピラ顔の男優ヤン・イクチュン監督だということを知った時。
パンフで芝山幹郎さんも書いていましたが、カオというよりツラですねー。

      
 【監督&主演のヤン・イクチュン。ホンマもんのチンピラが役者やってるのか、と思ってしまいそう・・・

 経歴も、これまでいろんなことを経験してきた人のようで・・・。
 ヌルボは行かなかったのですが、韓国文化院での試写会の際、彼自身が語ったところによると、
 「両親と仲が悪くて家族の悩みを抱えていたから、自分の怒りや憤りを作品にした。・・・・とくに社会に訴えるとかより、自分の悩みをこの映画で解決し、監督のご両親もこの映画を見て喜んでくれ、監督自身の家族とのわだかまりを解消できた、そういう意味での素晴らしい作品なんです」とのことです。

 このブログではあえて映画の内容紹介はしませんが、作品も演技も、ヤン・イクチュンが精魂を傾けた、ズシンとくる映画だなあと思います。
 自宅を売り払って製作資金を調達したというエピソードもナットク。。
昨年(2009年)の東京フィルメックスで最優秀作品賞を受賞した時のインタビューで、次回作については「全て出し切ったので、いまは自分の中に表現したいことが残っていない」答えたというのもさもうなずけます。

 長編第1作でこういう映画作ったら、あと大変だろうな、という見方もあるでしょうが、もうこれ1作でいいんじゃないの?という見方もあろうかと思います。

※<トン(똥)>=<糞>という言葉。語彙も表現法も多彩な悪口に用いられるだけでなく、元気のなさそうな友だちを励ます時(?)なんかにも「どうしたの? ウンコ踏んじゃったの?(トンパルバッソ?.똥 밟았어?)などと声をかけたりするそうです。

※この映画は「ドメスティック・バイオレンスのドキュメントでもあります」とどこかのサイトでどなたかが記していたのはあたっているかも・・・。

☆追記。少しだけ内容に関わる感想を記しておきます。
 口をついて出てくる言葉はほとんど罵倒。いや、話すよりもすぐ殴る、蹴る・・・。他人の共感をえられるべくもありませんが、自己の表現ではあります。
 そんな<反>共感のはずの表現が、全く思いがけなくも、通じてしまう相手と出遭ってしまいます。それも女子高生・・・。こんな寒々とした表現が通じ合ってしまう両者がなんとも切ないとしかいいようがありません。
 最初の出遭いの場面が印象的。(もちろん漢江の場面も・・・。)

☆追記2。「息もできない」という邦題は、「Breathless」という英語のタイトルを日本語訳したもののようですね。
コメント (2)
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