ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

シード ~生命の糧~

2019-06-30 01:51:46 | さ行

知っておいたほうがいい

大事なこと。

 

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「シード ~生命の糧~」69点★★★☆

 

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「未来の食卓」(10年)「世界が食べられなくなる日」(13年)などの系譜に

ぜひ加えてほしい

知っておかないとヤバい、「食」ドキュメンタリーです。

 

 

在来種が失われ、強い「種」だけが意図的に残されるのが

いまの農業の事情。

そのなかで、20世紀にもはや「種」の94%が消滅したんですって。

これ

かなりの衝撃ですよ。

 

キャベツは544種から28種に、アスパラガスなんて1種になったそうな。

 

そのなかで、現状を変え、

種が巨大な一企業に掌握されるような状況を打破し、

多様さを守ろうと踏ん張る

人物たちが紹介されていく。

 

ソローの『森の生活』(ワシのバイブル!)に憧れて

自給自足をする人物や

一瞬「ドラッグ売人か?」ってほどにハイテンションな植物ハンターなど、

実に多彩な人々が踏ん張っているんだなあ!と思う。

 

そしてペーパークラフトや種などを使った多彩なアニメーションで

その状況を工夫しつつ、写しています。

 

 

しかし、ここでも出てくる企業「モンサント」の悪事の数々。

自社の農薬で枯れない農作物を遺伝子操作で生み出し、

セットで販売し、それが世界を席巻している、とかは知ってたけど

 

作物から「種」を取らせないようにも遺伝子操作され、

ゆえに農家は毎回、企業から高いお金で種を買う、というシステムを生み出してることや

(なんちゅう悪徳ぶり!)

 

インドなどに農薬開発の実験農地を作り、

周辺の川や村を汚染し、人々の体に障がいを与えているとか知らなかった。

 

 

本当に最悪だな!

でもね

「フード・インク」(11年)「モンサントの不自然な食べもの」(12年)などなどで

さすがにモンサント=悪魔、のイメージが広がってきたようで

いまモンサントって名前を「バイエル」にしてるんだそうです。

 

どんだけ悪魔?!

 

★6/29(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「シード ~生命の糧~」公式サイト

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COLD WAR あの歌、2つの心

2019-06-30 01:26:53 | か行

「イーダ」(14年)監督の新作っす。

 

「COLD WAR あの歌、2つの心」70点★★★★

 

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1949年、ポーランド。

ピアニストのヴィクトル(トマシュ・コット)は

国の命で、民族音楽を歌い踊る少年少女たちを集め

国立の舞踊団を立ち上げることになる。

 

ヴィクトルはオーディションにやってきた

ある少女に目を奪われる。

彼女の名はズーラ(ヨアンナ・クリーク)。

いろいろと問題のある娘だと耳打ちされるが

その輝きと才能は群を抜いていた。

 

そして1951年。

舞踏団に選抜され、センターを務めるズーラと

ヴィクトルは激しい恋に墜ちていた。

 

だが、西側の音楽を好むヴィクトルは

政府に目を付けられてしまう。

 

パリへの亡命を決意したヴィクトルは

ズーラと「一緒に行こう」と約束するのだが――?!

 

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ポーランド出身、

「イーダ」のパヴェウ・パヴリコフスキ監督の新作です。

 

モノクロの完璧な構図、

情感に溢れているのに、語り口はぶつ切り(笑)という

不思議な魅力は変わらずです。

 

両親に捧げられた物語で、

両親がモチーフになったようだけど、実際の話ではないそうですね。

1949年のポーランドから始まり、

国を隔て、くっつき離れては、愛の再燃を繰り返す男女を描いている。

 

「好きなんだけど、一緒にはいられない」

アンビバレントな、特に女性の想いにめっさ共感するんですが(笑)

とにかく映った瞬間に

彼女がヒロインだとわかる、主演女優ヨアンナ・クーリクが素晴らしい。

「イーダ」の歌手役、そして「夜明けの祈り」(16年)にも出演してた。

 

決して愛想なく、しかし強い目力、そのオーラ。

舞踊団のセンターに立つ様子が前田敦子氏に重なっちゃうんですよ。

そして民族音楽主体の音楽がまた素晴らしい!

 

「魂のゆくえ」(19年)

ポール・シュレイダー監督が

パヴェウ監督との出会いで「撮らねば!」と奮起したそうで

人を、心を動かすなにかを「持ってる」監督であり映画だと思います。

 

★6/28(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ほか順次公開。

「COLD WAR あの歌、2つの心」公式サイト

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ペトラは静かに対峙する

2019-06-30 00:49:37 | は行

これまた究極のイヤミスだなあ!(好き。笑)

 

「ペトラは静かに対峙する」75点★★★★

 

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スペイン、カタルーニャ。

高名な彫刻家ジャウメ(ジョアン・ボテイ)の邸宅に

美しき画家ペトラ(バルバラ・レニー)がやってくる。

 

ジャウメと創作をする、というペトラは邸宅に泊まり

ジャウメの妻や息子と親交を深めていく。

 

が、実はペトラの真の目的は

ジャウメが自分の父親かどうかを確かめることだった。

 

しかし、周囲の人々の話を聞くうちに

ジャウメが邪悪で冷酷な人物であることがわかってくる。

 

そんななか、ジャウメ家の家政婦が自殺をする。

え?なぜ?――

 

困惑するペトラは

ジャウメの深い罠に巻き込まれていく――。

 

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いや~久々にしびれましたよ。

究極のイヤミス!(笑)でも引き込まれるんだよね・・・・・・。

 

まず

第2章から始まり、3章、そして1章、と

章をバラバラし、時系列を遡っていく手法に驚かされた。

 

章が飛ぶので一瞬、「あれ?寝てた?」って焦りました。

(笑。いや、今回は寝てませんでしたよ!

 

その後も、時系列がバラバラなことで

ある残酷な結果を知りつつ

それが起こる過程を後から見る・・・・・・、という感じになっていて

これがおもしろい。

 

バラすとまったくつまらないので

ぜひ、劇場で堪能していただきたい!

 

しかし、おもしろい――って言っていいんですかね

中身は相当に王道なエグい悲劇でもあり、

運命の皮肉であるんですよね。

 

 

言ってみれば

創造主であり、かつ破壊神を気取るかのような、

鬼畜な彫刻家ジャウメが

たわむれに人の生や死、運命を翻弄する、という内容で。

 

それでもゲスに終わらず

ギリシャ悲劇のような重みを持つのは、

映画を盛り上げる音楽の妙か、

ドア越しや部屋の外から中へ、また逆へ、と

登場人物の視点とは関係なく動く第3の目、なようなカメラのせいか。

 

はたまた

すべてをじっと見つめて、静かに対峙する

美しき女神のようなヒロインの横顔のせいかもしれません。

 

監督は1970年生まれ(タメ!w)の

ハイメ・ロサレス氏。

高尚のなかにある、この毒っぷり。

なんか、話が合いそうな気がします(笑)

 

ちなみに

ジャウメを演じたジョアン・ボデイ氏は、化学・農業学のエンジニアで

まったくの素人俳優なんだそう。

それにして、この存在感――怖っ!

 

★6/29(土)から新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

「ペトラは静かに対峙する」公式サイト

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