ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

レ・ミゼラブル

2020-02-28 23:00:00 | ら行

あの「レミゼ」とは違います。

本年度のカンヌであの「パラサイト 半地下の家族」と争った作品。

必見す。

 

「レ・ミゼラブル」79点★★★★

 

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かつて、ビクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台となった

パリ郊外の街モンフェルメイユ。

 

いまはアフリカ系移民が多く住み、

ギャングのにらみ合いや犯罪が多発する

危険地帯と化していた。

 

この街に新しく赴任してきた警官スティファン(ダミアン・ボナール)は

まるでアフリカのような青空市場が建ち並ぶ様子を目にし、

パトロール初日から、さまざまな洗礼を受ける。

 

そんななかでスティファンと、ベテラン相棒たちは

街の少年がサーカスのライオンの子を盗んだ事件に出くわす。

 

ささいないたずらに思えたそれは

思いもかけない事態へと発展していき――?!

 

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これは、マジでえぐられるなあ・・・・・・!

 

タイトルのレミゼが、やや紛らわしいのが難点かなと思ったけれど

なぜ、そのタイトルなのかの意味もちゃんとわかるし

なにより

見たあとに、世界が確実に変わって見える。

こういう映画に出会うことは、本当に貴重です。

 

 

舞台は、かつて「レ・ミゼラブル」に描かれ、

いまはアフリカ系移民が多く住む、パリ郊外モンフェルメイユ。

その街に新しく赴任してきた警官スティファンと、子どもたちのある一日が描かれる。

 

映画は主に

スティファンの目線で描かれるので

観客は彼と一緒に

「え?パリ近くにこんな場所があるの?

「え?どういうルールで回ってるんですか、ここ?

と驚きながら、話に入っていけるんですね。

 

監督のラジ・リ氏は、実際にこの地区の出身で

この場所にずっとカメラを向け続けてきたそう

 

ほぼたった1日の出来事を

緊迫とスリルを保ちつつ、一筆で描ききった

その技の見事さは、驚嘆に値します!

 

ライオンの子を盗むという

些細に思えるいたずら一つにも深い意味がある。

 

盗んだ子たちの属するイスラム社会ではライオンは強さの象徴で、

飼いならされるものではないけれど、

一方で、ライオンの子をサーカスで飼育する

ロマ(ジプシー)にとっては生活の糧であり

息子同様の存在。

 

しかもロマの人々は、アフリカ系移民からは「下」に見られ

差別されているんですね・・・・・・

 

 

さまざまな宗教、文化を背景にする人々が混濁する場所の

複雑さ、共存の難しさを感じながら

 

観客は

その事情を気にしつつ、なんとか場を納めようとする

警官スティファンと、同僚たちに多少なりとも感情移入していくと思う。

しかし、彼らは、そこである事態を引き起こしてしまうんですね。

 

ラスト近くには、一瞬

「ここで終わればきれいなのに・・・・・・」的な瞬間が訪れるんですが

そこを監督は、ズサッと斬る。

緊迫と怒涛の終わり方は、

この街を、この現実を知る監督だからこその、きつい平手打ちに感じました。

「そんな、きれいなもんじゃねえんだぞ」という。

 

 

そして

おなじみ「AERA」の「いま観るシネマ」でラジ・リ監督に

インタビューさせていただきました。

 

本当に、これすべて実話、なんだそう。

え?あれも?と驚くワシに、監督は証拠写真を見せてくれたりもして(笑)。

 

地域が国が、世界が抱える問題に対して

行動も起こしていると聞き、感嘆しました。

 

インタビューは「AERA」3/2発売号に掲載されると思いますので

映画と合わせて、ぜひ!

 

★2/28(金)新宿武蔵野館、Bunamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「レ・ミゼラブル」公式サイト

コメント (2)
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