この現実を、直視せよ。
「海辺の彼女たち」71点★★★★
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ある夜。
ベトナムから技能実習生として日本にやってきた
フォン(ホアン・フォン)は
同僚のアン(フィン・トゥエ・アン)とニュー(クィン・ニュー)とともに
小さなバッグを持ち、地下鉄に乗り込む。
いまの職場で3ヶ月間、
1日15時間、土日もなく働かされ、
十分に寝ることすらできなかった彼女たちは
そこから逃げ出し、
ブローカーを頼って、別の職場へと移ったのだ。
そこは雪が降る寒い海辺の港町。
だが、少しはマシになったと思った状況は
さして変わらず
それでもフォンたちはブローカーへの借金と、ベトナムの家族への送金のため
働かざるを得ない。
そんななかで、フォンが体調を崩してしまう。
アンたちはフォンを病院に連れていくが
保険証も在留カードもない彼女らは、受付で門前払にされる。
「妊娠してるかもしれない」――
フォンの告白に、アンたちは彼女を気遣いつつも
どうすることもできない――。
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ベトナムからやってきた“技能実習生”のリアルを
藤元明緒監督が、実際に出会った彼女たちからのメールをきっかけに
フィクションとして描いた作品です。
外国人技能実習生の実態は
コロナ禍でその窮状がよりクローズアップされ、
ニュースにもなっているけど
しかし「じゃあ、なんらかの対応や支援があるのか?」という話は
まったく見えてこない。
そんな彼らの状況を
限りなくドキュメンタルに描くことで
訴えと、気づきをうながしてくれます。
映画の冒頭、
ベトナムから日本に来た女子3人が
過酷な待遇から逃げ出し、ブローカーの斡旋で別の港町にたどり着く。
しかし
ここでも、さして待遇は変わらないんです。
そんななかで、一人の女子=フォンの妊娠が発覚する。
でも、前の職場から逃げ出した彼女は不法滞在者となり、保険証もなく
診療を受けることができない。
彼女を診る日本の医師たちも、状況はわかっている――だろうに
逆に、というか
わかっていても、どうしようもないんでしょうね。
尊い命を宿したフォンに
しかし静かに、ゆるゆると迫る絶望。
どうしようもなくて
雪道をさまようフォンに、道を行く車上の人々をはじめ、誰も気づくことはない。
安易に助けの手はこないんです。
でも、だからこそ
劇的な展開を選ばないところに、非情ながらも、迫るものがある。
世界は甘くない。
それでも生きていくしかない。
それこそが現実であり、いまを生きる苦しみなのだと
胸に刺さります。
こんな世の中で、みな、余裕がなくなっている。
そんなときに、人を思いやることは難しいけど
でも、だからって見て見ぬふりをしていいの?
日本を信じてやってきた外国人たちへ
日本がしている非道から、目をそらしていいの?
――いいわけないじゃないですか?
まずは日々流れっていってしまうニュースを
こういうかたちで、心に留め置き、考えさせることができる、それこそが
「映画の力」にほかならない。
そのうえで、しかと、考えるべき問題であります。
てか、この世の中、考えること大杉!(苦笑)
しんどいけど、でも考えることを、
せめて気づくことを、止めてはダメなんだよね・・・。
★5/1(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。