決して五輪賞賛映画ではないよ。
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「戦火のランナー」71点★★★★
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南スーダンの難民として生まれながら
その才能を開花させ、2012年ロンドン五輪でマラソン選手になった
実在ランナーのドキュメンタリーです。
1984年、内戦の続くスーダンで生まれた
グオル・マリアル。
自分の村が襲われ、家は燃やされ、
人々が皆殺しにされるような状況のなかで
両親は、8歳の彼を村から逃がした。
一時は敵の武装勢力に捕まった彼だけれど
しかしそこから走って逃げ出し、16歳で幸運にもアメリカに渡ることになる。
そして異国の地で高校に入学した彼は、
そこで「走る」才能を見出されていき――?という話。
本人の出自の壮絶さについては
もちろん言及されるのですが
思ったより、そこはサラッとしてるんです。
(それでも、彼の苦労は十二分に伝わるけどね)
アメリカにたどり着くまでの数年の経過が
バッサリ飛んでるあたりに
むしろ、語り尽くせない、つらさをおもんばかってしまった。
さらに映画は
その後、異国の地でオリンピック選手へと成長していく彼の
不屈の精神や努力の素晴らしさ――だけでなく
南スーダンという国の現状
――内戦の末に独立をし、つかの間の平和を得たものの、また内戦が起き、
いまなお混乱が続く――を
世界に知らせる、という意図を強く感じる構成で
そこがいいんですね。
いま、この状況で「オリンピック」を語ることの
難しさは重々承知の助。
(もちろん、ワシ個人は招致当時から一度も賛成してないし!!)
さらに、この状況でも来日せなあかん選手たちの
複雑な心中は、察してはいたつもりだったんですが
本作を観て改めて
「みんな、それぞれに、想像もできないほど
さまざまな背景を(しかも、ごっつ重く)背負っているのだ――」と
考えさせられました。
そして映画からはグオル氏の不屈のモチベーションが
間違っても名声などにあるのではなく、
「自分の成功が、祖国の次の世代の道しるべに、希望になれば」
にあることが、よく理解できる。
てか、
その目標にこれほど実感がこもる例を見たことがない。
そう、これは、決してオリンピック賞賛映画ではないのです。
かえって、こんな思いをしている選手たちを
IOCはどう考えてるのか?!と
怒りも沸いてくる。
オリンピックという祭りの意義をも
考えさせられる映画なのでした。
★6/5(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。