ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ぶあいそうな手紙

2020-07-15 23:28:27 | は行

いいなあ、こういう話。

 

「ぶあいそうな手紙」72点★★★★

 

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ブラジル南部の街、ポルトアレグレに暮らす

78歳のエルネスト(ホルヘ・ボラーニ)。

 

隣国ウルグアイから移り住んで46年。

ほとんど目は見えないものの

サンパウロに住む息子とは距離を置き、一人暮らしを続けている。

 

そんなある日、エルネストのもとに

1通の手紙が届く。

それはウルグアイに住む、かつての初恋の人からの手紙。

だが、スペイン語で書かれた手紙を

ブラジルの公用語ポルトガル語しか介さない家政婦は

読むことができない。

 

そんなとき、エルネストはアパートの入り口で

偶然、若い女性ビア(ガブリエラ・ポエステル)に出会う。

 

彼女がスペイン語を読めると知ったエルネストは

手紙の代読と、代筆を頼もうとするのだが――?!

 

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いいなあ、こういう話。

 

78歳の独居老人が

見ず知らずの若者に出会い、互いになにかを得る。

 

老人meet若者、という題材は

高齢化社会の都市伝説、ともいえるほど

古今東西、さまざまに描かれていて、

 

もちろん最近ではカラテカ矢部さんの

『大家さんと僕』もありましたよね。(すっきやねんこういう話)

 

 

どこか、おとぎ話のようでもあるけれど

いやしかし、

世界でこうした設定が繰り返し描かれるのは、

あながち寓話ではないからかも、と信じたくなるんですよね。

 

 

で、この話で出会うのは

ほとんど目の見えない老人エルネストと

パンキッシュな若者ビア。

(うーん、正直、23歳には見えないのだが。笑)

 

袖振り合うも多生の縁、で出会った二人は

遠くの親戚より近くの他人、という感じで

お互いに、必要な存在になっていく。

 

しかし、ここで

若者の「善」をまるっと信じたいところなのですが

ビアは最初、エルネストの家でセコい盗みをしたりして

「本当にこの娘、大丈夫なのか?」と観客もヒヤヒヤさせられるんです。

 

監督にインタビューしたところ

ブラジルでもやっぱりオレオレ詐欺的な犯罪は多いらしい。

 

でも、エルネストが手紙を読むことを「仕事」としてビアに頼み、

居場所と仕事を与えることで、

ビアは安定と、その先の希望を見いだし、

逆にエルネストはビアによって、背中を押され、

初恋の人にちゃんと手紙を書くことができる。

 

他人ならではの微妙な均衡、さらに

実の息子とエルネストの、実の家族だからこその微妙な距離や空気など

誰もが理解できるリアルがあることで

 

こんなカンケイも、ありだよね、としっかり腑に落ちさせるのが

なかなかよいのでありました。

 

さらに

独裁政権下を逃れたエルネストの背景や、

舞台となるポルトアレグレの街の雰囲気といい、哀愁を誘う音楽といい、

どこかヨーロッパぽいというか、ポルトガルっぽい印象もあって

興味深い。

タナのワインが飲みたくなるし

 

それに、このラスト

想像を超える鮮やかさで、すごーく好き。

 

おなじみ「AERA」の「いま観るシネマ」で

アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督に

インタビューをさせていただきました。

ブラジルの現状、そして日本での「老人と若者」についてもお話したり

すごーく美しく、ステキな監督なのでした。

映画と併せて、ぜひご一読くださいませ。

 

そして、エルネストが体験した

ウルグアイの独立政権下の状況などは

この「世界で一番貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」(20年)を観ていただくと

すっごくよく補完できると思います。

 

★7/18(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「ぶあいそうな手紙」公式サイト


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