絵画的な美しさの後ろに
機関銃のタタタタ音が鳴る。
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「国境の夜想曲」78点★★★★
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「海は燃えている」(16年)のジャンフランコ・ロージ監督が
イラク、クルディスタン、シリア、レバノンの国境地帯を
静かに捉えたドキュメンタリー。
題材からして、戦闘や暴力のシーンをイメージするかもですが
きれいに裏切られます。
インタビューやナレーションもなく
どこで、何を撮っているかの説明もなく
監督が目にしたものが、淡々と写される。
その切り取り方が、実に絵画的で美しく
目を奪われます。
さらに
だんだん写るものが謎をかけるようになってくる。
例えば暮れてゆく湖に小さな舟を出す男性。
銃かついでるし、カモを狙う猟師なのかな、と思うけど
やがて彼は葦のかげに身を潜めて、銃をかまえる。
もしかして、彼も国境を守る兵士なのか?
例えば、夜の漁船で働く少年。
明け方家に帰ると、幼子がいる。
え?若いパパなのか?
こうしたいくつかのエピソード(場面)が
パズルのように組み込まれ、
そこに見えるものにじっと目を凝らすと、
次第に「え、そういうことか?」理解できる感じで
それを謎解きのように読み解いていくおもしろさがあるんです。
しかも、ワンシーンが不必要に長くなく、
割とキリよく切り替わるので
眠くなったりしない(笑)
例の小舟の男性も、結局、釣り人なのか猟師なのか兵士なのか
ワシにはわからなかったけど
それでも「考える」ことがおもしろい。
(しかも、のちに周りにいたカモはデコイとわかったり(汗笑))
どの国境でも、そこにあるのが「境界」であり、
その銃口が、侵入者たる同じ人間に向けられていることが共通している。
その悲しみが、静かに漂うけれど
でもこれは決して、暗い映画じゃない。
そこに暮らす人々の営みには、
たしかな力強さがあり、観ていて気持ちは暗くならないんです。
特に漁をしていた少年と、その家族の様子は
とても心に残った。(彼はパパではなく、炭治郎でしたw)
それに本当に映像の切り取り方が見事。
鮮やかな朱色の囚人服を着た囚人たちが
運動場に放たれる様子など、
まるで水槽に放たれた金魚のようで、ずーっと見入ってしまう。
告発や非難ではなく
社会問題を独自に切り取り、映し出す
監督の視点、その「みたて」のおもしろさや芸術性の高さに
感じ入りました。
★2/11(金・祝)からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラスト有楽町ほか全国順次公開。
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