ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

マルジェラが語る"マルタン・マルジェラ"

2021-09-18 21:48:53 | ま行

なぜこの人がこんなに取り沙汰されるのか。

やっと、わかった。

 

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「マルジェラが語る〝マルタン・マルジェラ“」72点★★★★

 

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顔出しNGな謎のデザイナー、マルタン・マルジェラ。

2008年に引退してもなお人気の彼に

「ドリス・ヴァン・ノッテン  ファブリックと花を愛する男」(16年)

ライナー・ホルツェマー監督が迫ったドキュメンタリーです。

 

正直、マルタン・マルジェラって

名前は知ってるけど、よくわかってなかった。

 

本人不在で周囲の証言で構成された

「マルジェラと私たち」(17年)というドキュメンタリーもあったりして

「なぜ、この人、こんなに人気なんだろう?」と不思議だったんです。

 

でもこの映画で、その魅力も理由もよくわかりました。

やっぱり本人が語ると(映像は顔出しはなく、手のみだけど)

いろいろわかりやすい。

 

 

映画はパリでの回顧展の準備をする

マルジェラの様子からはじまります。

 

本人が作業しながら、たくさんの「想い出ボックス」を出してきては

自身について語っていくんですね。

 

相当な「取っておき魔」なのか(笑)

仕立て屋だった祖母に影響されたこととか

彼女がくれた端切れで子どものころに作ったアートブックとかも出てきて

これが超絶うまくて可愛すぎる!

 

さらに1980年代、アントワープ王立芸術学院で学び

(ドリス・ヴァン・ノッテンもここの出身!)

コムデギャルソンの川久保玲に衝撃を受けたこと

来日したときに見た日本の"足袋”タビにインスパイアされて

その後名作となる靴を作ったこと――などが

語られていく。

 

88年に自身のブランドを立ち上げ

97年にはエルメスのアートディレクターに抜擢されたりもして大活躍。

 

そして人気絶頂の

2008年にすっぱり引退してしまうわけです。

いまもブランドは残っていますが

 

なぜいまの時代にも、彼が人気なのか――

 

そのコレクションを時代を追って見ていくと

斬新で革新的だけど

どこか「わかる!」というポイントがあって

いまでも全然、通用するんですよね。

 

さらに

97年のエルメスのコレクションなんて

シンプル&ミニマルで

「え?いまでもあるよ、このデザイン⁈」みたいな普遍性がすごい。

 

彼がどうやってその境地に辿りついたのか。

さまざまな識者の考察を含め、

映画は掘っていくのです。

 

それは

いちデザイナーの物語、というだけでなく

「いまの世界の問題」をも提示しているようで

実に興味深い。

 

映画からもいろいろわかるのですが

おなじみ「AERA」で監督インタビュー&栗野宏文さんの考察を交えた記事を書かせていただいて

よりよ~~くわかりました。

 

AERA dot.

でも読むことができます!

 

まず、ほんっとに日本に親和性があるんですよね、マルジェラのマインドは。

わびさび、に通じるし

新しいものを作れ!買え!な消費万歳世界で

彼はいち早く

「そんなに、多くのものは必要ない」

「いいものを、少しだけ」みたいなことに気づいていた。

 

シンプルで、タイムレス。

そして、栗野さんに教えていただいてびっくりしたのは、

この貧乏なワシが唯一持っている「エルメス」の

二重巻きベルトの時計がマルジェラのデザインだったこと!

マジか・・・・・・。

マルジェラ、すげえ・・・・・・

 

それにいち取材者として

「なぜ監督は、ドリスをはじめ難攻不落な人物を落とせるのか?」も

すごーく気になるところだったのですが

インタビューさせていただいて

その秘密も、これまたよくよく理解できました。

とにかく誠実!

そしてホメ上手!(笑)

 

こんな一介の記者の気分もアゲてくださる、その人柄が

困難な取材を成功させているのか!

 

――もっとがんばれ、ワシ。(結局それか。笑)

 

★9/17(金)からホワイトシネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開。

「マルジェラが語る"マルタン・マルジェラ"」公式サイト


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