ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ディエゴ・マラドーナ 二つの顔

2021-02-07 03:28:07 | た行

やっぱり伝説な、すごい人。

でも、モヤモヤの正体もわかった。

 

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「ディエゴ・マラドーナ 二つの顔」71点★★★★

 

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秀逸ドキュメンタリー映画

「AMY エイミー」(15年)監督が

サッカーのレジェンド、マラドーナを追った作品。

 

2020年11月に亡くなった彼の近々インタビュー、

そして

彼の元妻などにも粘り強く交渉して取材を取り付けていて

貴重な映像と音声が満載です。

 

 

編集もさすがの手腕で

マラドーナの名前は知っていても

「神の手」がなんだったのか、もよく知らず

晩年の報道からなんとなく黒いイメージのほうが勝っていたワシにも

すごい人だったんだ!というリスペクトを喚起させ

さらに

様々を考えさせてくれました。

 

それに

歴史的な試合でも、知らないと勝ち負けがギリギリまでわからない、という

構成もうまい!(笑)

けっこうハラハラします。

 

 

まずはその生い立ちからスタート。

アルゼンチンの貧困地区に生まれ、

15歳でサッカーの才能を発揮し、

そこからずっと、一家を背負う任を課せられてきたんだ、と知って驚いた。

 

そして映画の中心となるのは

1984年、23歳にしてイタリアのSSCナポリに移籍したときから。

 

そもそもイタリア国内でも

南部のナポリという場所は、いろいろ差別されていたのだ、と初めて知ったし

そこにやってきた異国人マラドーナの

疎外感と期待とプレッシャーたるや、いかばかりだったか、と。

 

しかし、天賦の才と努力で彼は

チームを格上げしていく。

そんな彼の活躍に、ナポリ、そして国中が熱狂していく様子も

記録映像などからリアルに感じることができます。

 

1986年、 FIFAワールドカップでの“神の手”と5人抜きゴールなどの活躍で

「神」とあがめられ、

しかし後年、薬物問題などで転落していく様子も

しっかり描かれている。

 

「ゴモラ」(08年)などで観てきた

イタリアの犯罪組織「カモッラ」の怖さもジワジワと伝わるし。

 

と、総じておもしろい映画なのですが

どこか、ビミョーに複雑な気分になったんですよね。

 

例えば

勝利に沸き、雄叫びを上げながら盛りあがる

イタリア・ナポリのチームメイトたちのロッカールームでの様子。

あるいはワールドカップでの勝利に沸く

アルゼンチンの街や国の熱狂や狂乱ぶり。

 

まるで闘牛のように荒ぶる男衆の波が、正直怖いほどで

なんだか居心地悪く感じられたんです。

 

このモヤモヤはなんだろう?と考えて思い当たったのが

これってすごくわかりやすいマッチョ的世界で

「マチズモ(男性優位主義)」の表出なのだ、ってこと。

プレス資料でも

本作に関わった重職の女性スタッフたちが同じことを言っていて、

よりその思いがクリアになったんですけどね。

 

監督が切り口を「二つの顔」としたのは

家族思いでやさしい青年ディエゴと、

神とあがめられる対外的な“マラドーナ”の顔、ということなのですが

“マラドーナ”の顔は、このマチズモに相当に引っ張られ、

もまれることで生まれたんじゃないかと思うのです。

 

だってそもそもは

幼なじみとの約束を守って、その彼女と結婚したりする人なんですもん(ピュア!

でも、同時に若くして得た名声に溺れて

ほかの女性と関係してしまったりもするわけで。

 

そして次第に

“マラドーナ”の顔にのまれたのだろうか

男らしくあれ、勝者たれ、の弊害として自身の弱みを人に見せることができず

薬物に溺れてしまった、とも言えるのかなと

 

社会における男性の生きにくさ、をも

考えさせるのでありました。

 

ま、2021年のニッポンには

そんな同情の余地などなさそうな人もいますけど。

 

★2/5(金)から全国で公開。

「ディエゴ・マラドーナ 二つの顔」公式サイト


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