ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

すばらしき世界

2021-02-11 16:58:47 | さ行

素晴らしかった。

世界は厳しくつらく、それでもやさしく美しい。

 

「すばらしき世界」80点★★★★

 

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冬の旭川刑務所から

三上(役所広司)が出所してきた。

 

上京した三上は、身元引受人の弁護士(橋爪功)と

妻(梶芽衣子)に迎えられ、

温かいすき焼きを前に感極まって泣きながら、更生を誓う。

 

そして下町のアパートで

つましく、真面目に生きていこうとする。

 

だが、なかなか思うようにいかない。

 

そんな三上をテレビドキュメンタリーにしようと

プロデューサー(長澤まさみ)と

作家未満の青年(仲野太賀)が接触してくるのだが――?

 

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佐木隆三氏のノンフィクション「身分帳」をもとに

「ゆれる」(06年)「ディア・ドクター」(09年)

「永い言い訳」(16年)の西川美和監督が描いた作品です。

 

下町の小さなアパートで

きっちり部屋を片付け、きっちり食事を取り、折り目正しく暮らす

元殺人犯の主人公・三上(役所広司)。

その生活の正しさは、長い刑務所暮らしで身についたものなのでしょう。

 

真面目でまっすぐな性格の三上は

生活保護を受けることも「申し訳ない」と恐縮してぶっ倒れてしまうほどで

どうみても

好ましい人物に思えるし

チャーミングな笑顔にやられてしまう。

 

しかし、その美点や長所は

反転すると、暴走する正義という欠点にもなる。

しかも怒りを制御できず、

一度キレると手がつけられなくなってしまうんですね。

 

アパートの階下で騒ぐ若造たちに

怒鳴り込んで決闘するシーンとか

教習所で悪戦苦闘するシーンとか

ブッと笑ってしまうエピソードもたくさんありながら

 

もっとヒリヒリ、ヤバイ展開にもなる。

 

誰にもある、表裏一体の顔。

あたたかな日だまりのすぐ後ろにのびる、暗い影。

 

西川監督は、そんな描写を丁寧に積み重ねて

おだやかななかに

暗転ギリギリ、スレスレのリアルを描いていく。

 

そして

彼をとりまく人々の、恐る恐るながら

それでも、関わろう、助けようという思いに

絵空事ではない希望を紡ぎ出すのです。

 

 

不寛容の時代に

社会からこぼれる側の視点から、新たな気づきをもらった。

 

世界は厳しく、つらく、

でも美しく、あたたかく、やさしい。

そう感じられる描き方がすごく好きでした。

 

役所広司氏は言うまでもないですが

役者たちが本当にみな素晴らしい。

 

おおらかであったかい梶芽衣子さん、

最初、彼だと気づかなかった仲野太賀氏、

スーパーの店長・六角精児氏、

そしてキムラ緑子さんのあのシーン、

心がグワッ!と動かされ、マジ泣きました。

 

★2/11(木・祝)から全国で公開。

「すばらしき世界」公式サイト


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