ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

この世界に残されて

2020-12-15 23:52:55 | か行

切なくてたまらない。

 

「この世界に残されて」75点★★★★

 

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1948年、第二次大戦後のハンガリー。

 

婦人科で働く医師アルド(カーロイ・ハイデュク)のもとに

16歳のクララ(アビゲール・セーケ)がやってくる。

 

終始、不機嫌で生意気そうなクララは

ホロコーストで家族全員を失い、伯母と暮らしていた。

 

しばらくして病院のアルドを

クララが訪ねてくる。

 

面食らうアルドだったが

クララの聡明さに興味を持ち、次第に打ち解けていく。  

 

実はアルドもまた、ホロコーストの犠牲者であり

家族を失った過去を持っていたのだ――。

 

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「心と体と」(17年)の製作者×1977年生まれ、長編映画2作目となる

トート・バルナバーシュ監督の作品です。

 

戦争描写など一切なしに

ホロコーストの傷を追った人々のその後を静謐に描いていて、

実に好ましいというか

マジで沁みました。

 

1948年のハンガリー。

孤独な婦人科の中年医師アルド(カーロイ・ハイデュク)は

不機嫌な16歳の少女クララ(アビゲール・セーケ)と、診察室で出会う。

 

クララはホロコーストで家族を失い、伯母と暮らしているんですが

いろいろ不満だらけで、不機嫌。

 

でも

なぜか、アルドに親近感を持ち

アルドの一人暮らしのアーパートに押しかけてくるんです。

 

おいおい!と思うし

アルドも面食らうんですが

しかし、クララの聡明さや、利発さに驚き、次第に彼女を受け入れる。

二人は父と娘のように、一緒に暮らし始めるんですね。

 

あ~あったかいわー。

 

さらに物語が進むにつれて

孤独なアルドの背景もわかってくる。

 

そして

互いに孤独を抱え、心を閉ざし、行き場のなかった二人の心は

少しずつ、雪解けていくんです。

 

彼氏を作ったクララに、アルドがやきもきしたり

クララのほうも、アルドが年相応の彼女を連れてくると

すんげー微妙だったり。

 

そんな二人の関係は蜘蛛の糸のように繊細で微妙だけれど

そこに「律する」ものがたしかにある。

それがピーンと張り詰めていて、心地よいんですよね。

 

なにより

この時代のハンガリーは

ソ連の実質支配下におかれていて

社会主義思想に反する人は政府に捕らえられ、粛清さえていた。

 

その社会の不穏が

二人のささやかな幸福に、次第に影を落とし始めるんです。

 

歴史背景は大きな意味を持つけれど

ただ、描かれていることはすごーくエモーショナルというか。

クララとアルドの二人の関係は、男女としてどうこう、ということを超えて

この暗い世界で、互いを見つけたことの

かすかな喜びに満ちていて

観ていて本当にしあわせな心持ちになる。

 

ゆえに、切なさも倍増!なんですけど。

 

「キネマ旬報」12月下旬号で

トート・バルナバーシュ監督にインタビューさせていただいています。

 

トート監督、子役から俳優もしていたというイケメン!(笑)

 

1948年代ハンガリーの歴史的な背景はもちろんですが

年の離れた男女の一線ある「律した」関係、にすごく興味があるそうで

「『レオン』とか、好き」とおっしゃっていました。

加えて、あのタル・ベーラ監督の美術も担当したスゴイ方が、本作に参加していたりもして。

 

実は映画大国なハンガリーの映画事情もたっぷり伺い

けっこう濃いインタビューになっていると思います。

映画と合わせて、ぜひご一読いただければ!

 

★12/18(金)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「この世界に残されて」公式サイト


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