野獣のような男たちが牛耳る社会で、
声をあげたその勇気に、拍手。
「ペトルーニャに祝福を」71点★★★★
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北マケドニアの、とある村で暮らす
32歳女子ペトルーニャ(ゾリツァ・ヌシェヴァ)。
大学を卒業したものの、就職先もなく
高齢の両親と同居しながら
悶々日々を過ごしている。
そんなペトルーニャを心配して
母がツテで面接の口を探してきてくれるのだが
「ホントの歳を言わないで。25歳っていうのよ」と言う母に
ペトルーニャはやりきれない。
そして面接中に面接官にあからさまなセクハラを受けても
声をあげることもできない。
こんな自分も、いやこんな社会も、おかしくないか?!
心の中でそんな思いがうずまくなか、
ペトルーニャは土地の祭りに遭遇する。
それは、司祭が川に投げ込んだ十字架を
最初に取った男子が幸運を手にする、という祭り。
そこで、ペトルーニャは何を思ったか
川に飛び込み、十字架をゲットしてしまうのだが――?!
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北マケドニアの、ある村で
女人禁制の祭りで川に飛び込み、
幸運の十字架を手にした女性を巡る騒動を描いた作品です。
といってもまず
北マケドニアって、どこすか?というところから始まる感じですが(苦笑)
Googleマップで見ると
南にギリシャ、お隣はブルガリアやアルバニアに接する
旧ユーゴスラビアのお国らしい。
その地に1974年に生まれた女性監督
テオナ・ストゥルガル・ミテフスカが
実際の事件がもとに創り上げた作品で
ペトルーニャ役で、ごつい存在感を放つ女優も
同郷の生まれだそうです。
なぜ、「幸運の十字架」を女が取っちゃいけないの――? という女子の
ささやかな抵抗が思わぬ一大事になるさまを描いており
観終わると、たしかに拳を突き上げたくなる
映画なのですが
冒頭から、普通に観ていくと
ちょっと、いや、かなり変わった作品かも、と言わずにはいられない(笑)
まず、ヒロイン・ペトルーニャが
なかなか感情移入しにくいキャラなんですよね。
仕事もなく
年老いた両親の家で、食っちゃ寝な感じで悶々と日々を過ごす
32歳のモラトリアム女子。
そこに
ガンガンとヘビメタ?なロックがかぶさる
「ギョッ」とする意外性(笑)
そんなヒロインは
就活であからさまにセクハラされたり、
すごく「わかる!」の部分もありながら
単に「現状に不満だらけの32歳女子」――にしか、見えない感じもある。
そんな彼女が
いきなり、女人禁制の祭りで、川に飛び込む。
それによって大騒動が起こるのですが
張本人たるペトルーニャの動機が
かっこたる動機に基づくものなのか?
状況に対して声をあげる!といった「社会的意義」のあるものなのか?――が
ハッキリとはわかりにくいんです。
でも、そこが、現地の女性のリアルなのかもなと思う。
祭りに参加した男たちが
「十字架を返せ!」「女が取るなんて言語道断!」「殺すぞ!」的に
いきりたつ様を見ながら
(日本でもこの事件、あってもおかしくないよね・・・と思ってしまうあたりが怖い)
こんな野獣のような男たちを主としてる社会のなかで
「なんで女が取っちゃいけないの?」と
シンプルな疑問を抱くこと自体が
いかにあり得ないことなのか
さらに、それを行動に移してしまったことが
どれほどの恐怖なのか――が、
じわじわとわかってくる。
さらに、ペトルーニャの心情を少し理解してくれる
男性警官とのかすかな交流で、
男性にも、こんなにもマスキュリンで粗野で野蛮な
男社会に順応することに苦しむ人もいるのだ――と、わかるくだりは
問題の広がりを感じさせて、とてもいいと思いました。
加えて
ペトルーニャにとって味方となってくれる
女性ジャーナリストがいるのですが
テレビでこの騒動を伝える彼女が
「男性優位社会への反発?」「前時代的な国への戦線布告?」
と、自分の主張でストーリーを進めたがるシーンが
ちょっとこっけいに描かれているあたりにも
中立性があると感じました。
女性ジャーナリスト役は、監督の妹が演じており
監督自身も、もともとジャーナリストだったそう。
この土地で女性として社会進出することの難しさを
現実に体験し
「強くて傲慢でいやな女」とさんざん言われてきたそうです。
自身の国を、そして世界を客観的にとらえているがゆえに
ペトルーニャをヒロイックに描かなかったんでしょう。
そして、実際、最近
北マケドニアの社会に変化があったそう。
映画の力を、信じたくなる話ですな。
★近日公開。
※公開情報は公式サイト、劇場情報をチェックしてください。
よきタイミングでご鑑賞いただけることを願っています。
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