ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

家族X

2011-09-25 22:54:10 | か行

1980年生まれの若い監督が描く
「家族」の姿。


「家族X」58点★★★


第20回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)
スカラシップ作品です。


東京郊外の新興住宅地に住む
主婦・路子(南果歩)は

夫(田口トモロヲ)と
フリーターの息子(郭智博)の3人家族。

毎朝、彼女は食卓をキチンと整え、
食器を洗い、部屋を磨き上げる。

しかし家族は食卓を囲むこともなく
会話もない。


路子は日々、空虚な思いを募らせていく。

そしてついに、彼女が壊れるときがやってくる――。


均一で小綺麗な家が並ぶ住宅地の一軒で起こる
ある現代家族の
ディスコミニュケーションな姿を描く作品。


「おっくう」以外の何者でもないように、
無表情に家事をする南果歩を
手持ちカメラで追い、

会社でパソコンと格闘する
田口トモロヲをカメラで延々と追う。

いい役者にたっぷり寄り添った、
ある意味贅沢な映画です。


いかにもありそうなのが
この家族、
夫にも息子にも特に大きな問題があるわけでもないところ。


息子とだって、しようとすれば普通に会話もできる。


そこがミソで

大きなきっかけがないのに
生じる“ひずみ”というのが
現代的なんでしょうね。


また
会社の同僚も、近所の主婦も
口を開けば「大変ね」「厳しいよな」ばかりという
このリアルな閉塞感(苦笑)。


そして相手にかける「大変ね」の言葉は、
実は「うちはまだまし」という
比較や蔑みでもあるという
ひんやりする事実。


こうした現実を寒々と映し出す、
描写力に優れていると思います。


ただ、あまりにも提示される問題が
映される絵そのまま、というのがもう一歩。

うつや過食症、というパーツも、
パターンどおりかなと感じるし、

ラストが尻切れトンボなのも残念。

問題の先に、何を見るか、何を映すか。
次の一歩に期待したいです。


★9/24から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。

「家族X」公式サイト
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親愛なるきみへ

2011-09-24 22:45:08 | さ行

秋の夜に
たまにはまったり、こんなラブストーリーもいいねえ。

「親愛なるきみへ」70点★★★☆


大ヒットした「きみに読む物語」の原作者
ニコラス・スパークスのベストセラーの映画化です。


特殊部隊に所属する
米軍兵士ジョン(チャニング・テイタム)は

休暇中、実家に帰省し
女子大生サヴァナ(アマンダ・サイフリッド)と出会い
恋に落ちる。

だが2週間後、
ジョンは軍隊に戻らなければならない。

この任務が終わったら、除隊する。

そう約束して別れ、
手紙をやりとりしていた二人だが
9.11が起こり、事情は一変してしまう――。


まず
ラッセ・ハルストレム監督らしい
安定感が抜群です。

戦争に翻弄される男女の悲恋、という
クラシカルな話を
現代の物語として見せられるのは、

紛れもなく9.11という悲劇があったから。


先の「リメンバー・ミー」といい
あれから10年が経ち、
歴史的事件がラブストーリーの悲劇的要素として
使われるようになったのだなあと

感慨深いものがありました。


意外なオチもきっちり練られているし、
主演男女もみずみずしくてよい。


女が男に惹かれるきっかけも
深い川に飛び込み、
勇気を示してくれたからとか
(しかも自力で火までおこせる!(笑))

いかにも原始的な「オス」「メス」ふうに
実にシンプルでわかりやすいし、

「すぐに会おうね」という
甘い合言葉や、

手紙というオールドな要素を
温かみを持って活かしていて、

年配層にもウケると思います。


それに
チャニング・テイタムって
目のちっさいところとガタイのよさが
ちょっとジョシュ・ハートネット似で
割と好みだわ。


★9/23から全国で公開。

「親愛なるきみへ」公式サイト
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さすらいの女神たち

2011-09-23 21:21:04 | さ行

素晴らしすぎる女体。
素晴らしすぎる女性!バンザイ!

「さすらいの女神(ディーバ)たち」84点★★★★


「バーレスク」という映画がありましたが、
あれの現代版といえる
<キャバレー・ニュー・バーレスク>という
ダンサーたちが米国におりまして、


そのダンサーたちをキャスティングし、
映画にしたものです。


女性5人、男性1人の一座
「ニュー・バーレスク」は
フランスの地方都市をまわって興行をしている。


ありのままの豊満で美しい肉体で、
工夫を凝らしたパフォーマンスを行う彼女たちのステージは
どの街でも、満員御礼の大盛況。

彼女らをアメリカから連れてきた
座頭のジョアキム(マチュー・アマルリック)は
パリ公演を実現させようと奔走しているが、
なかなかうまくいかないようだ。

ツアーの途中で
ジョアキムは一人、パリへ交渉に行くが――。


ホントに素晴らしい映画!

フランスを巡回興行するショウ・ガールたちと、
彼女らを束ねる座頭の
ジプシーのような日々は

映画のルールに縛られない自由さと
軽やかさ、
そして人生の甘じょっぱさに満ちている。


彼女たちの出し物が
単なるストリップではなく、
あくまでも「考えられたショー」であるように、

決して「下世話」ではない狂乱の日々が、
風のように自由闊達に綴られて、

昔のゴダール映画をみたときのような
なんともいえないウキウキを感じました。


監督&主演は
「潜水服は蝶の夢を見る」の
ギョロ目のマチュー・アマルリック。

いや~、監督の腕前も
すんごいじゃないですか!

彼は相当なシネフィル(映画狂)だそうで、
でもたいていそういう人って
力入り過ぎちゃったり
理論に走ったりしがちですが、

いやいや、この人はうまいです。


自分を見事“小男”に仕立てて、

すべてをさらけ出し、
男たちを包み込む女神(ディーバ)たちの
懐の深さを描き出し、

その胸に包み込まれる
安心感を観客にも感じさせてくれる。


気ままに流れゆく、浮き世暮らし。
でもそこが私たちの家なんだよ、という
ラストがすごい好きだー。


★9/24からシネスイッチ銀座ほか全国で公開。

「さすらいの女神たち」公式サイト
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カンパニー・メン

2011-09-22 13:00:36 | か行

キャストで選んで、間違いナシ。

「カンパニー・メン」76点★★★★


米、ボストン。

企業のエリート社員、ボビー(ベン・アフレック)は
ある日突然、解雇を言い渡される。

リーマンショックを受けて
株価を上げる必要に迫られた会社が、
大量リストラを敢行したのだ。

年収12万ドル、ポルシェを乗り回す
いわゆる“勝ち組”だったボビー。

「仕事なんて見つかるさ」と思ったものの、
職探しは難航してしまう。

上司(トミー・リー・ジョーンズ)に泣きつくものの、
その上司たちの首さえ危うくなって――?!


クリス・クーパー、トミー・リー・ジョーンズ、
ベン・アフレック、
さらにケビン・コスナーという

超そそる配役で

サラリーマンの悲哀を等身大に描く
良質なヒューマンドラマです。


特に自意識過剰ぎみで、
状況になかなか対応できない主人公ボビーの苦労は、

今の日本でとても他人事でなく、
リアルな共感があります。

ベン・アフレックの芝居も自然でいいし。


仕事は生きがいだけど、人生じゃない、と
シンプルなことを、いまいちど見直そうよという映画ですね。


また
リストラされた後の流れを
けっこう細かく描いていて「へえ」だらけでした。


再就職に向けて
ボビーは「就職支援センター」というところに行くんですが、
ちゃんとオフィスのような個々の机とスペースがある。

日本のハローワークとはえらい違いだワン。


まあ仕事がなかなか見つからないのは
おんなじですけどね…。

しっかし
「米の会社は非情だ」っていうのはよく聞きますが、
発売中の「週刊朝日」(9/30号)「ツウの一見」で
国際ジャーナリストの
堀田佳男さんにお話を聞き、

ホントに恐ろしいと思いました。

アメリカの会社って
本当にその日の朝言われて、2時間で出てけ、みたいな感じで
電話帳すら持ち出せないんだそう。

なので、引き継ぎはおろか
得意先に事情説明もできないんですって。


ありえなくないすか!?


ほうけるボビーの横で、
奥さんのほうが現実的なのもうんうんという感じ。

やっぱ女性のほうが、適応能力高いんだなア。


この映画で番長が一番印象に残ったのは
冒頭のシーン。

朝、クビを言い渡された人々が、
呆然としながら駐車場にワラワラと出てくるんだけど、

まるで、静かなゾンビ映画か、
SFホラーの一場面のようです!

コワイ!


★9/23からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「カンパニー・メン」公式サイト
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4デイズ

2011-09-20 23:01:54 | は行

スリーときたら、今日は
「4デイズ」44点★★


これも3.11を受けて延期され、
ようやく公開となった作品です。


アメリカ政府に
「国内3都市に核爆弾を仕掛けた」という
告白のビデオテープが送られてきた。

ビデオを送った男は
イスラム系アメリカ人、ヤンガー(マイケル・シーン)。

彼はどういうわけか自らすすんで逮捕され、
FBIのヘレン捜査官(キャリー=アン・モス)が
尋問を担当することに。

だが尋問に“H”と名乗る
謎の男(サミュエル・L・ジャクソン)が参加してくる。

“H”は拷問のプロフェッショナルだった。

彼の非人道的な拷問に反発するヘレンだったが、
爆発までの猶予はわずか4日間。

二人はテロを食い止めることができるのか――?!



核爆弾を仕掛けたテロリストを
拷問のスペシャリストが拷問するという話。

キャリー・アン=モスは気合い入ってるし、
サミュエル・L・ジャクソンも
嫌われ役を楽しそうに演じてるんですが、

うーん、正直
いまみっつ、という感じですねえ。


まず終始、
人道的立場の捜査官VS非道な拷問役、という図式で
「無茶な拷問するな」「いや国民の命が優先」というやりとりが
延々繰り返されて、ちょっと飽きる。


一人のテロリストの尊厳が大事か、
多数の国民の命が大事かという
微妙な題材を扱うにしては
深みと重みにも欠けている。


ただ、FBIが
ここまでキリッとしてなく、
頼りなく描かれるのは珍しくて、ちょっと笑えました。

ハイテク駆使でもないし、
キャリー=アン・モス以外、誰もキビキビしてない(失笑)。

国家テロの作戦会議室は
学校の教室みたいだしなあ。
(あえて、そういう舞台にしてあるようだけど)


そうそう、肝心の拷問シーンですが
まあまあ抑制されてるほうです。

痛そうな場面になると
キャリー=アン・モスが代わりに
「oh!」って目をそらしてくれるから大丈夫(笑)

今日試写で見た
邦画「スマグラー」(10/22公開)のほうが
よっぽど痛かった。

ちなみにこの映画、
全米では劇場公開されずDVDスルーなのだそう。

内容でNGだったんでしょうかね。

そして、
実はアメリカ版と
日本公開版のラストは違うんですって。

どう違うのか?!
見たかたにはコッソリお教えしましょう、ハイ(笑)。


★9/23から銀座シネパトスで公開。

「4デイズ」公式サイト
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