ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ダウンサイズ

2018-03-04 13:04:31 | た行

意外に“大きな”話だった(笑)


「ダウンサイズ」68点★★★★


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米・ネブラスカ州に住むポール(マット・デイモン)は
母の介護のために、医者になる夢を諦め、
作業療法士として働いている。


誠実に、地道にがんばっているが
給料はさほどでなく

妻(クリステン・ウィグ)が望む広い家も、
いまのままでは到底無理だ。

そんなとき、世界的な発明がなされる。

北欧ノルウェーの科学者が
人間を小さくする方法を編み出したのだ。

13センチに“ダウンサイズ”すれば
食べる量も、住む家も小さくできる。

いまの100万円の貯金は1億円の価値を持ち、
豪邸に住むことができる!
ひいては地球環境のためにもなるのだ!

悩んだ末、ポール夫妻は
ダウンサイズすることに決めるのだが――?!


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小さくなった人間が
家の中や半径10メートル程のなかでアワアワ……規模の話かと思ったんだけど
いやいや、意外と
地球規模、環境問題への提言だったりして

話はけっこうビッグでした(笑)


「人間が小さくなれば、限られた地球資源を有効活用できる」
「環境破壊などの問題を解決できるかも」
というのが、人間を小さくする理由で

その研究プロセスなどを
真面目に描いているので

逆に
「なんで、人間が小さいだけで、こんなに可笑しいのか?」という
ナンセンスさが際立つんですね。

特に
妙にシステマチックに行われる
「小さくなる施術」がおかしい。

ちっちゃくなった人間を
ヘラですくうとこなんかもう!(爆笑)

で、
結局、小さくなっても
「人間は、なにをもって幸せなのか」という根源に行き着く。


ベースはおもしろいと思うんです。
「がんばっても、むくわれない」格差社会のむなしさも描かれている。


ただ、かなり話を詰めているけれど
根本的な“問題”があるというか。


小さくなるのは自分の選択だから
世の中に、大きい人間と小さい人間が共存するわけです。

これを言っては詮無いかもしれないけど、
小さくなった人間の
「圧倒的な非力」は解決されてないよね。

「小さくなることは是が非か?!」というテレビ討論中に
机の上の13センチのキャスターを
勢いあまって拳で叩いちゃったら、どうなるのかしら……とか

ベースがしっかりしてるだけに
“黒い展開”を勝手に想像できるのが
楽しくもあるんですけどね。

……できないかな「ダーク・ダウンサイズ」(笑)


★3/2(金)から全国で公開。

「ダウンサイズ」公式サイト
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ハッピーエンド

2018-03-02 23:47:22 | は行

まさにこれは
ミヒャエル・ハネケ監督の総決算!


「ハッピーエンド」79点★★★★


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13歳の少女エヴ(ファンティーヌ・アルドゥアン)は
母が薬物中毒で入院したことで

母と離婚した父(マチュー・カソヴィッツ)を頼って
父の実家にやってくる。

父の家は、カレーに住むブルジョワジーで

エヴは
一大で財を築いた祖父(ジャン=ルイ・トランティニャン)と
その娘(イザベル・ユペール)、彼女の息子、

そして父の若い妻と幼い息子と
瀟洒な邸宅で暮らすことになる。

が、エヴはそこで
幸せそうな一家の“ひずみ”に気づいていく――。


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ミヒャエル・ハネケ監督の新作。

まさに
これまでのさまざまなハネケ要素が詰まった
“総決算”という感じ。


ハネケ監督、「今回は“不快”な映画を作るときだと思った」と
コメントされているようですが
まさに!その思惑は、バッチリ機能しています。


スマホのREC画面から始まり、
ハムスターに薬を盛る恐るべき少女、工事現場での崩落、
裕福な一族の、一見してわからないゆがみ――

全てがひたひたと、静かに、
優美さすら漂わせながら、崩壊へと進んでゆく。

一家の話だけでなく、その裏には
SNS社会の不気味、他者への無関心、移民問題など
76歳の巨匠がみる“現代社会”が
よーく研がれたペティナイフのような冷たさで描かれていて
ゾクッとします。


監督は
日本で起きた
「母親にタリウムを飲ませて毒殺しようとした少女」が
その顛末をブログに公開していた事件記事を読み、
関心を寄せていたそう。

さらに祖父役(ジャン=ルイ・トランティニャン)は
監督の前作「愛、アムール」(12年)の、あの夫役ですからね。

ハムスターで実験し、母親にも……?という少女が
祖父と思わぬところで秘密と心境を共有するくだりには
ぐわん、ときました。


それに
イザベル・ユペールが面倒な息子を
公然の目の前で、静かにさせる、あのシーン!


その怖さはやはり天下一品!


★3/3(土)から角川シネマ有楽町ほか全国順次公開。

「ハッピーエンド」公式サイト
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聖なる鹿殺し

2018-03-01 22:44:45 | さ行

「ロブスター」の鬼才監督の新作。
すさまじい強度!


「聖なる鹿殺し」76点★★★★


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心臓外科医スティーヴン(コリン・ファレル)は
リッチな家で
美しい妻(ニコール・キッドマン)と、二人の子どもに囲まれて
幸せに暮らしていた。

だが、スティーヴンにはもう一人
気にかけている
少年マーティン(バリー・コーガン)がいた。

しかし、スティーヴンが少年を家に招待し、
家族に紹介したそのときから
一家に奇妙なことが起こり始める。

幼い息子が、ティーンエイジャーの娘が
突然歩けなくなってしまったのだ。

一体、何が起こっているのか――?


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前作「ロブスター」で
「45日以内に結婚できなければ、動物に変えられてしまう」という
奇想天外なのに鋭く現代を突く作品で話題になった
ギリシャ出身、ヨルゴス・ランティモス監督の新作です。


これまた数段、パワーアップ!
すごい映画でした。

第70回カンヌ国際映画祭でも脚本賞を受賞してます。



「いったい、何が起こるのか?」――

冒頭からずーっと
不穏と不協和音のアンサンブルが続くなかで
ふと
我々は気づくのだ。
またしても監督の「ルール」にハマっていることを!

予備知識ナシでご覧になりたい方は
ここでストップ!をおすすめします(笑)






この先を読んでみたい方のために、
先へ進みますと

主人公の心臓外科医スティーヴンは
ある手術で、患者を救えなかったんですね。

で、その死んでしまった患者の
息子がマーティン。

彼は罪悪感から
マーティンに親切にしているんですが

マーティンはスティーヴンに復讐するため
ある仕掛けをしてくる。

それは
父を殺したペナルティとして
スティーヴンも家族の誰かを失わなければならない、というもの。

で、手始めに子どもたちが
なぜか歩けなくなったりする。

呪詛のたぐいの描写もなく
それがまた、フツーに、淡々と起こる。

本来なら
「そんなこと、ありえない!」って思うんですけど
でも、それを観客の感覚や脾臓に染み込ませ、
納得させちゃうのが、この監督のすごみなんですよ。


「なぜ、そんなことが?」という疑問など挟ませず
「そういうものなのだ」とする、
この“神”な力が、パねえ(笑)

ランティモス監督は
つくづく、自分でルールを造りたい人なのだなと思う。
そしてそれを説得する力がある人なんだなと。
怖い(笑)

そして状況で、必然的に「誰が生き残るか」の
点数稼ぎ合戦になるという。
シュールさがたまりません(笑)

スティーヴンに降りかかる不条理は、
彼が犯した罪――
傲慢、尊大、無意識の差別や特権意識などのペナルティなのか?


現代社会をも、鋭く刺していて
ワシは非常におもしろく見ました。


★3/3(土)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷&有楽町ほか全国で公開。

「聖なる鹿殺し」公式サイト
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