ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

輝ける人生

2018-08-24 02:06:49 | か行

 

やっぱり「ハリポタ」って

ホントに“イギリス名優年鑑”みたいなものだったなあと。

 

「輝ける人生」74点★★★★

 

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イギリス・サリー州の豪奢な邸宅に暮らす

60代の専業主婦サンドラ(イメルダ・スタウントン)。

 

充実の中流セレブライフを送っていた彼女は

しかし、あるとき夫の浮気を知ってしまう。

 

激怒したサンドラは家を飛び出し、

10年近くも疎遠だった姉ビフ(セリア・イムリー)を訪ねる。

 

自由気ままに生きるビフはロンドンの古い団地で独身ライフを満喫し、

サンドラとは正反対のタイプ。

 

そんな姉に反発しつつも

サンドラは姉との暮らしで、見失っていた自分自身に気づいていくのだが――。

 

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超・良作「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」(14年)の監督作。

うん、これもいい映画。

 

夫の浮気にブチ切れて、姉の元に転がり込んだ60代の専業主婦。

豪邸から団地暮らしになり、タイプの違う姉との生活ですったもんだしながらも

自分自身と人生に気づいていく――というストーリー。

 

実際、展開は読めるところもあり

セリフはやや凡庸だったりもするんです。

 

それでも!

やっぱり「ダンス」や「音楽」は、最高のワクワクをくれるし

なにより

生きること、楽しむことに貪欲な姉ビフのキャラクターがいい!

 

彼女の輝きに、観ているこちらも照らされるようでした。

 

71歳のリチャード・ロンクレイン監督は

こうありたい!と思わせる「シニアライフ」を

リアルに描くのがうまいんですね。

 

生き生きと楽しいビフのまわりには

親友のチャーリー(ティモシー・スポール)をはじめ

自然体の「おもしろ人」が集まってくる。

もちろん、各人いろんな事情を抱えていたりもするけど、

彼らはそれぞれが「個」として立っている感じがする。

 

ビフのオンボロ団地で

そんな仲間たちがクリスマスを祝う、その楽しそうなこと!居心地よさそうなこと!

ああ、こんなシニアライフを送りたい!と思いました。

 

イギリスの名優たちの競演も見どころで

イメルダ・スタウントンは「ハリポタ」のピンクの衣装のドローレス・アンブリッジ役で知られているし、

ティモシー・スポールも言わずと知れた「ハリポタ」のペティグリューですからねー。

 

そして

死を恐れる妹サンドラに姉ビフが言う

マーク・トウェインの言葉の引用が、けっこう残りました。

「私は生まれるまでずっと死んでいた。でもなんの不都合もなかった」

――達観!

 

★8/25(土)からシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「輝ける人生」公式サイト

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若い女

2018-08-22 23:52:54 | わ行

 

なんともフレッシュな才能に、出会えた喜びよ。

 

「若い女」74点★★★★

 

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フランス・パリ。

31歳のポーラ(レティシア・ドッシュ)は

10年付き合った恋人に、突然、部屋から放り出された。

 

途方に暮れたポーラは、衝動的に彼の愛猫を盗み、

友人の家に身を寄せる。

 

だが、ポーラの無神経ぶりに愛想を尽かした友人は

彼女を家から追い出す。

 

しかたなく安宿に泊まるが、そこでも猫の存在がバレて追い出される。

 

猫を連れて、パリを徘徊するポーラ。

彼女の明日は、いったいどっちだ――?!

 

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86年、フランス生まれのレオノール・セライユ監督作。

冒頭からギョッとするほど、破壊的キャラのヒロインが登場し、

しばらくはあぜんとしつつ

成り行きを見守るしかありませんww

 

 

ヒロイン=ポーラは、

自分の“人生の旬”を捧げた年上の恋人にフラレて

やけっぱちになっている。

 

しかも「彼の女」という地位に満足していた彼女には

自分自身の未来のビジョンも、行き場もない。

ゆえに、

途方に暮れ、猫を連れて、パリの街を徘徊することになる。

そんな様子を、カメラは追っていくんです。

 

 

正直ポーラって、感情移入の対象にはとてもならない人物。

エキセントリックで粗野で、自己チューで嘘つき。

 

しかし! ある場面から、猛烈に彼女に心をつかまれたんですよね。

 

それは、ポーラが友人宅からも宿からも追い出され、

にっちもさっちも行かなくなって、地下鉄の構内に佇むシーン。

 

助けを求めるような目をして、行き交う人々を、ただ見つめる。

誰かにすがりたいのに、「助けて」と声を出せない。

そんな彼女の孤独との闘いかたが映画ににじみでていて、グッとやられました。

 

全然、大丈夫じゃないのに「大丈夫」って言ってませんか?

「困ってる?」と聞かれても「ううん」と答えちゃってませんか?

そんな経験、誰にでもあるでしょ?

だからこそ、ポーラがだんだん愛すべき人に見えてくるんだと思う。

 

グレタ・ガーウィグがやりそうなキャラを

さらにアップデートした感じで演じた、レティシアがいい。

 

そして

人間はやっぱり一人では生きられない。

「誰か話す相手がいるか」がどれほど重要かを思い知らされました。

 

 

★8/25(土)から渋谷ユーロスペースほか全国で公開中。

「若い女」公式サイト

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検察側の罪人

2018-08-20 23:56:56 | か行

 

ワシ、雫井さんの「犯人に告ぐ」も

原田監督の「クライマーズ・ハイ」(08年)も

ニノさんの「ブラックペアン」も好きだし~(笑)

 

「検察側の罪人」72点★★★★

 

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東京地検刑事部の新米検事・沖野(二宮和也)は

エリート検事・最上(木村拓哉)に憧れ、師と仰いでいた。

 

そんなある日、町工場の経営者夫婦が殺害される事件が起こる。

 

最上は複数の容疑者のなかから、一人の男に疑いをかけ、

沖野に取り調べをさせる。

 

だが、常に冷静沈着な最上の行動には明らかな不自然さが漂っていた。

「最上さんは、彼を犯人に仕立てようとしていないか?」――

 

沖野と、沖野の検察事務官(吉高由里子)は

疑問を持ち始めるが――?!

 

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雫井脩介原作×原田眞人監督×

木村拓哉×二宮和也×吉高由里子。

 

それぞれ「腕に覚えあり」な各氏が魅せるガチ合戦で、

かなりハードめで、おもしろかったです。

 

超人=ヒーローは登場せず、木村拓哉氏もまあデキる程度の普通の人。

その心情や行動に共感できるかは別として

一介の人だからこその、もがきと闇は、みえてくる。

 

そして

予告でも流れてますが

“ベビーフェイス”な二ノ宮和也氏が豹変する

取り調べのシーンの「おお!」はなかなかです。

 

吉高由里子氏のピュアなのか正義感なのか微妙な感じも、

松重豊氏のヤバさも本物っぽくて唸る。

 

 

それにですね

明らかに「詩織さん事件」を想起させる会話が耳に入ってきたり、

極右政党の危険がバックに描かれたり

メディアの無能さが揶揄されたり

 

日本の危うい現実を

端々でチクリサクリと、鋭く刺してくるんですよ。

おお、攻めてるなあと、作り手の気概を感じました。

映画って、そのときの世情を映し、後世に残るものですからね。

 

★8/24(金)から全国で公開。

「検察側の罪人」公式サイト

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オーケストラ・クラス

2018-08-16 02:14:42 | あ行

 

いつもながらフランスの学校の

てんやわんやぶりにはゾゾ~ッとするんですけどね(笑)

 

「オーケストラ・クラス」72点★★★★

 

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パリ19区。

アフリカ系やアジア系など多様な移民の子どもたちが通う小学校に

バイオリニストのシモン(カド・メラッド)がバイオリンを教えにやってくる。

 

プロの仕事にあぶれ、渋々やってきたシモンは

想像以上にやんちゃな子どもたちの洗礼を受け、自信喪失。

 

暗澹たる気持ちになるシモンだが

あるとき、彼が模範として演奏をしてみると

子どもたちは静まりかえる。

 

さらにシモンは、ある少年に

才能の萌芽を見出すのだが――?!

 

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パリ19区の小学校に音楽を教えに来たバイオリニスト。

しかし、子どもたちは想像以上に暴れん坊で、前途多難すぎる――!というストーリー。

「パリ20区、僕たちのクラス」(10年)

「バベルの学校」(15年)、そして

「奇跡の教室」(16年)

 

散々、フランスの学校のてんやわんやぶりを見せられてきましたので

さすがに、もう慣れっこ……というわけには、全然、いきませんわ!(笑)

 

移民の多いこの地区は、

異なる背景を持つ親たちの主張も入り交じる難しい地域なんですよね。

 

そんななかで

実際にフィルハーモニー・ド・パリによって行われている

子どもたちへの音楽教育プログラムにインスピレーションを得て作られた物語だそう。

 

いやあ、口八丁な子どもたちにげんなりしつつも(苦笑)

この映画、

想像以上に、聴き手(観客)の心にダイレクトに響く。

 

それは

ことさらな事件を起こさず、極力シンプルに

「音」が人の、子どもの心に響いたり、

その心を動かしたりする様をストレートに描いたからなんですよね。

 

一番わかりやすいのが

騒がしく収集つかない子どもたちの前で、

バイオリニストの主人公シモンが、静かに演奏をはじめるシーン。

 

その音色に、子どもたちが「シーン・・・・・・」と釘付けになる。

 

実際、その音色には

観客の動きも止めてしまうような「ハッ」と感があって

演出というより、子どもたちは本当にシーンとしたんだろうな・・・・・・と思える。

 

そんなストレートさが、こちらの心も震わせるんです。

 

しかも実際、出演している子どもたちは

ほとんど楽器を演奏したことのない少年少女だというんですから

 

うーん、リアリティある!

 

そして、最初はそんな子どもたちに戸惑い、

「ダメな子」「できない子」を排除しようとするシモン自身が、

しかし、そこからどう変化するのか、も見どころ。

大人もまた子どもに教わり、成長してゆくのだ、とシンプルに感じられました。

 

パリの街を見下ろす「屋上のバイオリン弾き」となる

才能ある少年アーノルドのシーンも素敵だったなー。

彼は実際、バイオリンの才能があるようですよ。

ああ、若いって、可能性があるって、いいね!

 

★8/18(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「オーケストラ・クラス」公式サイト

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タリーと私の秘密の時間

2018-08-14 18:05:08 | た行

 

「ヤング≒アダルト」(11年)おもしろかったもんねえ。

 

「タリーと私の秘密の時間」70点★★★★

 

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3人目の子を妊娠中のマーロ(シャーリーズ・セロン)は

忙しい日々を送っている。

 

娘は手がかからないが

息子のジョナ(アッシャー・マイルズ・フォーリカ)は情緒が不安定なところがあり

マーロはしょっちゅう小学校に呼び出されている。

 

夫(ロン・リヴィングストン)は優しいが

家事も育児もマーロに任せっきりだ。

 

やがて3人目の娘が無事に生まれるが

すでに若い母親ではないマーロの体力はさすがに限界。

本当は気が進まないが、ベビーシッターを頼むことにする。

 

やってきたのは、若くスタイルのいいタリー(マッケンジー・デイヴィス)。

いかにも「いまどき」な彼女に、最初は戸惑うマーロだったが――?!

 

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「ヤング≒アダルト」の

ジェイソン・ライトマン監督×ディアブロ・コディ脚本×シャーリーズ・セロンが再タッグ。

 

子育てに忙殺される女性が

有能なベビーシッターと出会い――?という話で

自身が3人の子の母であるディアブロ・コデイの実体験から生まれたものだそうです。

 

夫はいるのに、一人ですべてをしなくちゃいけない

まさに“ワンオペ育児”の悲劇に陥る妻の状況はリアルで

 

主人公の人に頼れない性格ゆえの大変な状況も、

そのつらさも、

特に女性には格別に共感を呼ぶと思う。

 

なんてったって

シャーリーズ・セロンの出っ腹と「疲れた感」がお見事!

この人、本当にありとあらゆるものになれる“モンスター”だなあと感服。

 

ただ、オチも含めて

やや拍子抜けなところもあった。

 

例えば、息子ジョナの言動や行動の特徴は

明らかに自閉症でないかい?というもので

医者3人にかかっても分からなかった、とセリフは「え?」という感じ。

 

そのことを彼女が認めたがらない、という線でいけば

確実にあるあるなんだけど、

現代のアメリカであればもっと

適切な対応とサポートがあるだろうになあ、とかね。

 

でも、ホントにどこの世の中も

お母さんは大変なんだとつくづくわかった。

もっと大変なことになる前に、

お父さんたち、観たほうがよさそうですよ。

 

 

★8/17(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「タリーと私の秘密の時間」公式サイト

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