ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ポルトガル、夏の終わり

2020-04-20 23:29:12 | は行

儚げなユペールの輪郭が夕日に溶けていく――

いいシーンだなあ!

 

「ポルトガル、夏の終わり」71点★★★★

 

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ポルトガルの世界遺産の町・シントラ。

 

美しい緑に囲まれたホテルで

フランキー(イザベル・ユペール)は誰もいないプールに飛び込んだ。

 

世界的に知られた女優である彼女は

この町に休暇にやってきた。

 

が、実はフランキーはこの地に

夫や息子に、義理の娘やその子、

さらに元夫や友人まで呼び寄せていた。

 

いったい、なんのために――?

 

事情を知らない彼らは

一様にそれぞれ問題を抱え、ゴタゴタを繰り広げるのだが――?!

 

 

*******************************

 

ポルトガルはシントラの美しい風景のなか、

有名女優のもと

いろいろ複雑そうで、まあワケありそうな家族が集まり――?!というお話。

 

監督は「人生は小説よりも奇なり」(14年)

アイラ・サックス。

この映画、なかなかよかったですが

イザベル・ユペールも監督に注目していて、一緒に仕事をしたかったらしい。

で、監督はこの話を、彼女のために書き下ろしたのだそうです。

 

わーお。

 

ただね最初は

なかなか話が見えず、目的がわからず、じれったく

美しい街を、すてき衣装の登場人物たちが漂う

観光ムービー・・・・・・と言えなくもない。

 

しかし、

すべてくつがえすような、終盤に加点!したくなるのだ。

 

 

いつにもまして線が細いユペールの

その印象の理由がわかり、

それまで、すべてをコントロールしようとしていた彼女が、

「いや、それは、違うのか」と悟る。

 

そして、そのはかなげな姿が、

夕日に消え入りそうに、溶けていく。

 

こんなふうに撮ってもらえれば、

女優冥利につきるだろうなぁ――!って思うのですよ。

 

いつも、どこかに漂う、もの悲しさがあって

 

ポルトガルという街の持つ郷愁と哀愁に、

うまく寄り添って作られているなあと思いました。

 

AERA「いま観るシネマ」で

イザベル・ユペール氏にインタビューさせていただいています!(スカイプ取材です)

近年、ますます存在感と美しさを特盛りにしながら

何を演じても「その人」っぽい、その秘密を

伺ってちゃってます!

ぜひ、映画とあわせてご一読くださいませ!

 

★近日公開。

「ポルトガル、夏の終わり」公式サイト

※公開情報は公式サイト、劇場情報をチェックしてください。

よきタイミングでご鑑賞いただけることを願っています。

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劇場

2020-04-18 14:54:42 | か行

原作もすごくいいです。

 

「劇場」70点★★★★

 

***************************************

 

永田(山﨑賢人)は、その日ボロボロだった。

 

劇作家を目指す彼は

劇団「おろか」を立ち上げ、脚本と演出を手がけているが

上演のたびに酷評され、客足は伸びない。

 

だが誰の助言も聞かず、尊大な態度を取る永田は

劇団員にも見放され、劇団は解散寸前だった。

 

いつまでもつだろうか。劇団も、自分の「才能」を信じ続けることも。

 

――さすがにヘコみかけていたそのとき、

永田は街で

咲希(松岡茉優)を見かけ、声をかける。

 

そして二人は付き合うようになるのだが――?!

 

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又吉直樹氏原作×行定勲監督。

 

才能や自分の限界をのらりくらりとごまかし

自意識だけは過剰で、自己チューで

人のことなど思いやれない。

 

そんなどうしようもない男と、それを甘やかす優しい女の話で

 

――って書いてても

痛い痛い!というか(苦笑)

 

誰にでも、どこか思い当たる

恋愛でやらかす身勝手や、相手への依存。

かなわない才能への嫉妬や焦り。

「自分」を直視できず、逃げ回ったり。

そんなグズグズに、えらく正面から向き合った作品だなあと。

 

 

実際、最初は

主人公・永田を見てるのがしんどいんですわ(苦笑)

こんなやつに付き合う、カノジョもカノジョだ!

咲希ちゃん、こんなやつ、とっととほかしたれ!とイライラする(苦笑)

 

しかし

演じる二人の、役への「情」の込めかたが巧みで

観ながらだんだん引きずられていく。

切ない気持ちになっていく。

 

この二人は

どちらが、どちらに、ではない。

互いにしがみついていたんだ――って。

 

それに恋愛話だけでなく、ジクジクとくるのが

特に表現者において避けられない「才能」という鬼門を

ほじって描いてるところなんですよね。

 

『火花』もそうだけど

おそらく自分にとっても一番痛いところを掘っていく又吉氏は

すごいと思う。

 

ということで

「AERA」にて又吉直樹さん×山﨑賢人さんの対談をさせていただいてます。

やっぱり聞きたかったのは、そこで

ほじくって聞いてます(笑)

 

AERAdot.でも読むことができますので

映画と併せて、ぜひご一読くださいませ!

 

★近日公開。

「劇場」公式サイト

※公開情報は公式サイト、劇場情報をチェックしてください。

よきタイミングでご鑑賞いただけることを願っています。

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WAVES/ウェイブス

2020-04-10 23:56:47 | あ行

フレッシュさ間違いなし!

 

「WAVES/ウェイブス」71点★★★★

 

 

********************************

 

マイアミの高校に通うタイラー(ケルヴィン・ハリソン・Jr)の人生は

キラッキラに輝いていた。

 

裕福な家庭に生まれた彼は、レスリング部のスター選手。

美しい恋人(アレクサ・デミー)ともラブラブで

父の期待は少々重荷なものの、

その未来は、万事順調――なはずだった。

 

しかし。

ある日、あることをきっかけに

タイラーの人生は予期せぬ方向へと向かっていく。

 

そして彼に起きた出来事は、

兄の影で目立たない存在だった

妹のエミリー(テイラー・ラッセル)の人生をも

大きく変えていく――。

 

********************************

 

 

こちらも「フェアウェル」同様、

「ムーンライト」(16年)「レディ・バード」(17年)

「ヘレディタリー/継承」(18年)の「A24」スタジオが手がけた作品です。

 

これはフレッシュさ間違いなし!

でも、あんまり明かしてしまうとつまらないので

ストーリーについては、知らぬままご覧いただいたほうがいいと思う。

 

でも、知っておいてほしいのは

この映画、135分あるのですが

前半と後半があり、

 

後半でガラッと視点が変わって

ハマリ方も変わってくるので

ぜひ、味わってほしい、ということなんです。

 

まあ、このへんでやめておこう、という方はここまでに(笑)

 

 

 

まあ、少しだけ明かしますと

実際、話は普遍的でなんてことないんです。

 

冒頭から、斬新なカメラワークや

「音」を、視覚的に見せる試みは

たしかに効いているんですが、

 

主人公は

レスリング部の花形スターで、リッチな家に住む17歳男子で

周囲からの期待や、「がんばらねば」というプレッシャーなど

うーん、別に普通じゃね?

という感じもする。

 

ただ、父親との関係や

ちょっと母との間に距離がある様子など

ところどころに、カツン、と引っかかるものはある。

 

そして、やがて彼の日常が大きく転調するのですが

 

しかも、

それはあくまでも「前半」なんです。

 

で、後半。

イケイケだった兄の、ある出来事から

視点は彼の妹にバトンタッチする。

 

その妹のパートがはじまると、

監督の意図が、何を描きたかったのかがわかり

かなり腑に落ちました。

 

 

人と人が出会い、まぶしい光と愛に満たされ、

ぶつかり、罵り合い、

その結果もたらされた悲劇や死に傷つく。

そんな人の営みは、愚かなほどにめぐりめぐり、繰り返される。

 

そんな人の世に現れては消える

「きらめき」。

 

前半から繰り返される

音と光の洪水も

 

その感情の波動=「WAVES」を

感触とともに、ここに写そうとしたんだろうな、と。

 

 

若者たちの刹那が、たしかに光と音に波打って留め置かれているので

若い世代はより共感できるかもしれない。

 

でも、そんな「世代くくり」だけでも、もったいない気もする。

と言いますのも

監督のトレイ・エドワード・シュルツ(1988年生まれ)は

あのテレンス・マリック監督の

「ツリー・オブ・ライフ」(11年)などに撮影アシスタントとして参加していたそうで

なーる。

 

触感を大事にするような映像作り、

師匠につながってる感、ありあり!

 

いずれにせよ期待のホープ、であります。

 

★近日公開。

「WAVES/ウェイブス」公式サイト

 

※公開情報は公式サイト、劇場情報をチェックしてください。

よきタイミングでご鑑賞いただけることを願っています。

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フェアウェル

2020-04-08 22:57:34 | は行

やさしくて、不思議に心地いい。

 

「フェアウェル」72点★★★★

 

**********************************

 

NYに暮らすビリー(オークワフィナ)は

6歳のとき、両親とアメリカにやってきた移民二世。

 

大学を卒業したものの、希望する仕事に就けず

落ち込む日々。

 

そんな彼女を励ましてくれるのは

故郷・中国で暮らす

仲良しの祖母のナイナイ(チャオ・シュウチェン)だ。

 

今日も電話でナイナイと話し、

「じゃまたね」と少し元気をもらったビリーは

近くに住む両親を訪ねる。

 

しかし、なんか両親の様子がおかしい。

 

問い詰めたビリーに両親は口を割った。

「ナイナイは肺がんの末期で、余命わずかなんだ」――。

 

驚くビリーに、さらに父は追い打ちかける。

 

「親族一同、このことをナイナイにナイショにすると決めた。

お前はすぐに顔に出るから、ナイナイに会いに行ったりするなよ」

 

――えええ?!

当惑するビリーは、果たして?!

 

**********************************

 

 

余命宣告された祖母に

親族一同が「やさしいウソ」をつき通そうとするお話。

 

「ルーム ROOM」(15年)「ムーンライト」(16年)でいま、一番勢いある

映画スタジオ「A24」が手がけ、

わずか4館公開から、全米トップ10入りを果たした作品です。

 

 

監督ルル・ワンの実体験が基になっているそうで

これは、たしかに映画的題材だよなあと(笑)

 

祖母ナイナイに病気を知らせず、

孫息子の結婚式を口実に、中国に集まった親族たち。

何も知らないナイナイの前で

大いなるウソをつき通そうとする

主人公ビリー(演じるオークワフィナがいい!)や一族の

ドタバタやハラハラが可笑しくて(笑)

 

笑いあり、ホロリあり、

やさしくて、不思議に心地いい映画でした。

 

 

舞い込んできた小鳥、披露宴会場の隅で休憩する獅子舞――など

「ささやかなもの」への監督の目線も

映画にやさしさを醸している。

 

さらに

家族が海外に散らばるグローバル社会の現状、

自由の国・アメリカで実はいろいろ不自由な主人公ビリーの様子など

映画はいろんな「いま」を写してもいる。

 

何処にいても"異邦人”なビリーの姿を見ながら、

監督自身が、この物語を通して

自分のルーツを再確認しているように感じました。

 

それにね。

ワシもビリーと同じく

余命は知りたいし知らせる派、だったけど

この映画をみて

「知らせなくていいや」と思うようになった。

これ、けっこう大きい気がしました。

 

「AERA」でルル・ワン監督にインタビューさせていただいてます!(スカイプです)

上記のことを監督に伝えたところ

「それは嬉しい!でも、私は正直、撮影前より、どうしたらいいか迷ってしまってる」と

おっしゃっていました(笑)

 

 

ちなみに。

「やさしい嘘」キーワードで思い出すのは

この映画。

「やさしい嘘と贈り物」(08年)

これ、すっごくいい。

 

あと

「グッドライ~いちばん優しい嘘~」(14年)

もなかなかの良作です。

(ブログ見返すと、番長おおむね辛口、張ってんですけどね(苦笑)

 

いい映画、棚にいっぱいあります。

こんな時分だからこそ、ぜひぜひ楽しんでください。

 

★近日公開。

「フェアウェル」公式サイト

※公開情報は公式サイト、劇場情報をチェックしてください。

よきタイミングでご鑑賞いただけることを願っています。

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ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ

2020-04-07 23:46:13 | ま行

なるほどねえ。

エミール・クストリッツァ版と比較しても

実に面白いです。

 

*****************************

 

「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」71点★★★★

 

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2012年の国連でのスピーチで、一躍、

世界的に有名になった

元ウルグアイ大統領、ムヒカ氏を追ったドキュメンタリー。

 

ムヒカ氏についての詳細は

先だって公開された

エミール・クストリッツァ監督による「世界でいちばん貧しい大統領」

を参照していただきたいのですが

 

こちらは同じ人物を

若いフジテレビディレクターが追いかけている。

 

「人生の百戦錬磨」っぽいクストリッツァ監督と比較するのは

あまりに酷であることは承知ですが

最初は正直、

ひょこひょこおっかなびっくりムヒカ氏に会いに行く監督の「甘さ」が、

鼻につきもしまして

 

自分の息子が生まれたシーンから始まるとか

オレオレ主張が強すぎない? どうよ?って(苦笑)

 

しかし、これが意外に意外な展開を見せてゆく。

 

「オトナの了解のもと」って感じの

クストリッツァ版もいい味なんだけど

 

こちらは

より包括的にムヒカ氏の成り立ちや人生を描いていて

魅せるんですよ。

 

なにより、若者ならではの無防備さを受け入れてくれた

ムヒカ氏本人からの言葉をしっかり引き出していること、

 

そして「日本」をキーワードに

ムヒカ氏と日本の意外な関わりを明かにした点もおもしろい。

 

 

来日した氏が学生に向けて講演する映像には

マジで泣けました。

 

ムヒカ氏は

日本の若者に未来への希望がなく

政治参加意欲も投票率も低いことをちゃんとご存知で

自身の厳しい過去、その経歴を振り返りながら、

日本の若者たちの背中を押してくれるような

いいメッセージを投げてくれるんです。

 

「人生で大事なことは成功ではなく、歩み続けること。

仕事を失っても、打ち負かされても、また立ち上がり、進むんだ」。

 

この映画を試写で観たときは、

ここまで新型コロナで世界が変わるとは想定しておらず

このメッセージは

うつ病や転職など、さまざまな理由で

一度つまずくとなかなか立ち直ることを許されない日本社会への提言だ、と感じたけれど

 

 

先の「ビッグ・リトル・ファーム」(20年)と同様に

この言葉とこの映画を知っていたことで

ワシはいまのこの状況に対して、相当に心構えができた気がするんです。

 

焦っても、しょうがない。

仕事を失っても、打ち負かされても、また立ち上がり、進むんだ!

 

こういうときだからこそ

こういう映画を観てほしいと強く願います。

 

ただ、盛り上げ系の音楽は

もうちょっと抑えた方がよかったかな~とも思うけど。

 

★近日公開。

「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」公式サイト

※公開情報は公式サイト、劇場情報をチェックしてください。

状況を鑑みて、無理なきように

よきタイミングでご鑑賞いただけることを願っています。

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