ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

窮鼠はチーズの夢を見る

2020-09-12 19:35:22 | か行

「きのう何食べた?」前夜の若さとハードさ。

 

「窮鼠はチーズの夢を見る」72点★★★★

 

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恭一(大倉忠義)は一流企業のサラリーマン。

イケメン・妻あり。何の問題もなさそうな彼の前に

大学時代の後輩、今ヶ瀬(成田凌)が7年ぶりに現れる。

 

実は今ヶ瀬は探偵業をしており

偶然、恭一の妻に依頼され、恭一の不倫調査をしていたのだった。

 

で、結果はクロ(笑)。

 

なんとか不倫の事実を隠したい恭一に

今ヶ瀬は交換条件を出す。

 

「大学時代から、ずっと先輩が好きだったんです」

「へ?」

――――驚く恭一は、しかし妻との生活を守るため

「一度きりだぞ!」と

今ヶ瀬のキスを受け入れるのだが――?!

 

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これは・・・・・・予想以上にまっすぐなボールが心臓に投げ込まれ

びっくりするやら痛いやら。

 

愛に執着なく、流されるままに恋愛→結婚してきた男。

その心の扉を

あの手この手で、なんとかこじ開けようとしたのは男だった・・・・・・という話で

別にこれ、男×男に限った話でない。

 

愛されるよりも、愛したいマジでなのか

いや愛されるほうがいいでしょ、なのか

惚れたほうが弱いのか、いや結局誰も愛せない虚無ってどうなのか、とか。

 

誰にでも思いあたる恋愛に関するもろもろ&グズグズが

ストレートに描かれてて心臓が痛い痛い(苦笑)

 

どんなカップルにもありだけど、

ただ、やっぱり男女のグズグズ、というだけでなくそこに

男×男のひねりが入っているのが効いてるんだとは思います。

 

成田凌氏演じる今ヶ瀬の、一途さとかわいらしさ。

戸惑いながらも、彼に居心地のよさを感じていく大倉忠義氏の、ぎこちなさ。

なんだか初々しくて

愛の純度が高いんですよね。

 

男二人の暮らしぶりは楽しそうで微笑ましく、

かつ、ラブシーンもきっちり直球!で

そこに

語り尽くされた恋愛に真正面からぶつかる!という監督や出演者たちの意欲を感じ

こちらも真剣に向き合わせずに、いられない。

男×男にはちょっとハードルある、という男性の方も

意外に心動いちゃうんじゃないかな、と思うのでありました。

 

あちこちに「笑えないシチュエーションに、思わず吹く」という笑いが

差し込まれているのもおかしくて

「私(女)と今ヶ瀬(男)、どっち選ぶの!」のシーンとか

シュールすぎて笑ったわー(笑)

 

★9/11(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開。

「窮鼠はチーズの夢を見る」公式サイト

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行き止まりの世界に生まれて

2020-09-04 21:07:51 | あ行

スケボーって、ホントに手段であり

「居場所」だったんだなあと。

 

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「行き止まりの世界に生まれて」74点★★★★

 

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昨年の第91回アカデミー賞

長編ドキュメンタリー賞ノミネート作。

 

米イリノイ州・ロックフォード。

 

トランプ政権誕生に大きく影響した

「ラストベルト=錆びついた工業地帯」と呼ばれる見放された街で

スケートボードを通じて出会う若者たち。

 

その仲間の一人だったビン・リュー監督が

彼らの12年間の軌跡をまとめたドキュメンタリーです。

 

中心になるのは黒人少年キアーと

若くして父親になろうとしているザック。

 

はじまりこそ、光溢れる楽しそうなホームビデオ風なのですが

キアーのある告白で、トーンが変わっていく。

 

キアー、ザック、そしてビン・リュー監督自身も

一様に家族の問題を抱えていたこと――

特に父親から暴力を受けていた、ということがわかるんですね。

 

国からも見放された街で、貧しさや家庭内暴力の連鎖から

なかなか抜け出せない若者たち。

彼らはどう大人になっていくのか。

 

その課程が、鮮明に鮮烈に記録されていて

すごく貴重だと感じました。

 

 

いつの時代も表現の奥に、若者の不満や鬱屈はあった。

でもここにあるのは、新たな潮流だと感じるんです。

 

というのは

ロックフォードの街って、まあ確かにさびれてはいるんだけど

キアーの家も、ザックも、ビン監督の家も

見た感じはごく普通の住宅街の、普通の一軒家。

若者たちも楽しそうに、スケボーパークに集まってる。

 

そこに問題があるとは、一見わかりにくいんですよね。

 

でも、

よどんだ街の未来のない閉塞のなかで、

大人たち(特に男たち)がその「出口なし」な状況の鬱屈を

家庭内で、弱い立場の存在――妻や子どもたちに向けてしまう。

 

そんな環境で育つ子どもたちが背負う

「負の荷物」を表出させた、ということでも

この映画は大きな意味があると感じます。

 

そんな「負の荷物」を彼らは下ろすことができるのか?

差別や貧困や暴力といった負の連鎖を、断ち切ることができるのか?

これはこの街に限らず、世界で、そして日本にもある

難しい問題ではあります。

 

でも、そのひとつの答えを

監督自身が、示している。

 

発売中の『キネマ旬報』9月下旬号で

ビン・リュー監督にインタビューさせていただいてます。

20代で本作を完成させた、聡明な監督の来た道こそが希望だ、と

感じずにいられませんでした。

ぜひ映画と併せてご一読ください!

 

★9/4(金)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「行き止まりの世界に生まれて」公式サイト

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mid90s ミッドナインティーズ

2020-09-03 23:50:37 | ま行

あー、なんで、泣けるんだろ(涙)

 

「mid90s ミッドナインティーズ」74点★★★★

 

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1990年代半ばのロサンゼルス。

13歳のスティーヴィー(サニー・スリッチ)は

若くして子を持ち

いまは一人で奮闘する母(キャサリン・ウォーターストン)と

威圧的な兄(ルーカス・ヘッジズ)と暮らしている。

 

家庭に居場所のないスティーヴィーは

ある日、街のスケートボードショップで

ボーダーの少年たちと知り合う。

 

少しだけ年上の彼らは、

スティーヴィーにとって、とてつもなく自由で、まぶしく見えた。

 

彼らの仲間になろうと

スケボーを始めたスティーヴィーだがーー?!

 

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「ムーンライト」(16年)や

「レディ・バード」(18年)A24作品にして

俳優、ジョナ・ヒルの初監督作。

 

自身の10代の想い出を基にしたという

半自伝的な話で

 

いやー、なんでもないのに

なんで泣けるんだろ(笑)

 

10代のころ

家ではない「居場所」を求めて出会った人たち。

 

とにかくその存在を追いかけたかった、少し年上の先輩や女の子。

すべてがマジックで憧れだった、まぶしい光や

甘く、しかし苦くて、渋い経験。

 

どんな世代の誰もが持ってるであろう、そんな記憶を

思い出させるんですよね。

 

それは、ビビッドな登場人物の造形や、みずみずしい映像、

ドンピシャな選曲などの的が、実に的確だからだと思う。

 

すごくうまくできた物語、とかとは

正直、違うんです。

でも、すくうと、手のひらからサラサラと流れてしまうようなこの感覚を

なんだか愛おしく、なんども味わいたいと思ってしまう。

 

そこが、いいんですよねえ。

 

奇しくも、90年代後半~00年代の

スケートボーダーズたちの12年を追ったドキュメンタリー

「行き止まりの世界に生まれて」も同時期公開。

併せてご覧いただくと、奥行き倍増です!

 

★9/4(金)から公開。

「mid90s ミッドナインティーズ」公式サイト

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