25時間目  日々を哲学する

著者 本木周一 小説、詩、音楽 映画、ドラマ、経済、日々を哲学する

生き抜く力

2016年11月05日 | 文学 思想

ヒトが成長し、海や空や大地に戻るまで、まず、最初の衝撃は「受精」の瞬間である。

 選んだ卵子が選んだ精子と合体する場面である。これを勝ち抜いた卵子と勝ち抜いた精子と言っていいと思う。選ばれた卵子(精子)と言っていいのだが、それな卵子の側が母を選んだということも明らかになりつつあることなので、ここでは一応(選んだ卵子)と言っておく。次は子宮への受精卵の着床である。卵管を通り抜けなければならない。この着床が次の衝撃である。受精卵はここで、細胞分裂を始め、生命の歴史を再現しながら成長していく。この時に母の胎内には母のホルモンが血液を通して送られる。安定的にバランスよく送られる場合もあれば、不安定でホルモンのバランスば崩れている場合もあるだろう。羊水匂いやPH値も母の状態によって違ってくる。皮膚が最初の耳の役割をする。やがて聴覚からの映像が見えるようになる。そしてそれを確かめるように視覚ができる。肺呼吸の準備も始める。そうやって未熟なままヒトは37度の羊水の中から寒い体外に出てくる。この寒さは第三の衝撃である。もちろん第二と第三の間には外からの激しい悲鳴た騒音、けたたましく速い脈拍の音や血流の音も入っていることだろう。この場所は凪の日もあれば嵐の日も、さざ波の日もあるような海のようなものだ。

 昭和の始め頃には1000人の赤ちゃんが生まれたら、無事に一歳の誕生日を迎えることができなかった子が150人ほどいた。感染症との闘いが始まるのである。チフス、はしか、百日咳、インフルエンザなどなどの攻撃にさらされることにある。

 バリ島では生まれて一年経って初めて人間と認める儀式がある。おそらく一年未満で死んでしまう子への悲しみを封じるためのものであろう。彼らはヒトとまだ認められない。

 凄まじい生存の競争を生き抜いてきたヒトは、死ぬまでの間まだまだ困難な闘いを続けることになるが、一歳未満の子らよりは逞しくなっている。

 胎児から二歳くらいの時期、安定した母親の心情があれば生き抜く力が強くなると僕は考えている。