自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆老翁のつぶやき

2005年07月03日 | ⇒キャンパス見聞
   ワシは家じゃ。金沢大学の角間におる。老体を押して、この春、コブシの花が咲くころに白峰の山から、前田(利家)さんの金沢に下りてきたのじゃ。長生きをしてみるもんじゃ。ワシが越前におるころ、前田さんが金沢にきたのじゃ。あのお方は越前の武生にもおられさったのでよう知っとる。剛毅なお方じゃが、口が軽てな、「家康を殺れ」と死出の床でいうたもんで、お松さまは江戸に人質にとられる、その話を聞いた家来は目を突かれ耳を切られて大変じゃった。三代さんは鼻毛まで伸ばしておどけて見せ江戸の将軍さんに恭順したのじゃ…。この話でおわかりのとおり、ワシはもう四百年余りも生きているのじゃ。


   茶がほしいの~。昔、家はみな働き者でな、ワシはもともと養蚕農家だった。蚕を育てとった。今でも白峰に牛首紬というのがあるじゃろ、あの蚕糸はワシらがつくっとたんじゃ。老若男女が寄り添ってのお、それはそれはにぎやかじゃった。2階の天井を見上げみなされ、梁(はり)が合掌造りになっておろう、それがワシがもともと養蚕農家という証拠じゃて~。

   冬もにぎやかじゃったよ。1階の奥に仏間にあるじゃろ。ワシらは仏間とは呼ばん、「ドウジョウ(道場)」と言うのじゃ。ご法師さんがござって説教をされる、それを何度も何度も繰り返して空で覚えるのじゃ。極楽浄土を思えば、現世の苦などなんでもない。ひたすら念仏を唱えるのじゃ。大学に来てからはセミナールームと呼ばれておるが、今も昔も心して学ぶもんのドウジョウじゃ、あの部屋は…。

   そういえば、珍しい客人が大勢ござったのお、亜米利加のプリンストンとかいう大学の。餅をついて楽しそうじゃった。女子(おなご)でも体格がいいのはキネを軽々と持ち上げとったのお~。米一俵を持たせてみてもよかったかの。たくましいもんじゃ。長生きはするもんじゃ。餅の話をしたら喉が枯れてしもうた、お茶がほしいの~。

   ワシのことを言うとった何とかという副大臣がおったのお。そう、塩谷という名前じゃった。ワシはあと百年ほど生きれそうじゃと人づてに聞いて、「100年たった周囲の建物はなくなってとる」と言われたお方じゃ。ワシはあと百年生きたら、死なせてほしい。どうしても、もう一度というのなら、今度は海の夕日の見える丘の上に建ててほしいのじゃ。どっぷり暮れる夕日を眺めれば、五百年も生きた昔をうつらうつらと思い出だすじゃろ。もう、眠いワイ。

※プリンストン大学の学生45人の来館は6月30日、塩谷文部科学副大臣の来館は6月6日

⇒3日(日)午前・金沢の天気  曇り
コメント
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