ことし3月、ライブドアがニッポン放送株をめぐって争奪戦を繰り広げたのはフジテレビの番組コンテンツをインターネットに取り込むためだった。この強烈なメッセージはテレビ業界には「ネット業界による乗っ取り」、インターネットのユーザーには「放送と通信の融合」、一部の政治家には「外資に対する警戒」とさまざまなかたちで伝わった。そして今月に入り、テレビ業界が動いた。日本テレビとフジテレビが相次いでインターネットによる動画配信ビジネスに参入すると表明し、フジは女子バレーボール世界大会の番組をきっかけに録画配信を行った。民放キーの3番目の動きとして20日、TBSがテレビ番組のネット配信とDVD化のための新会社を、ソフトレンタル店「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と共同で設立すると発表した。
新聞報道によると、記者会見したTBSの取締役は「番組出演者らの権利処理などの課題解決に向けた議論も進んでおり、積極的に展開したい」と述べた(21日付朝日新聞)。TBSはすでに、CMをとって番組を無料でネット配信するUSENの「GyaO」(ギャオ)にニュースの動画コンテンツを提供しており、配信のノウハウを着々と構築してきた。ある意味で満を持しての記者会見だったろう。
一方でTBS取締役が「権利処理などの課題解決に向けた議論も進んでおり」とわざわざコメントしたのには背景がある。日本経済団体連合会(経団連)=写真=を調整役とした権利処理の動きが急速に進んでいるのだ。ことし3月に音楽、映画、放送など著作権関連団体と、映像コンテンツ関連の9団体で構成している利用者団体協議会が協議し、「最も権利関係が複雑」とされるテレビドラマのブロードバンド配信の際の使用料率を「情報量収入の8.95%」と合意した。配信による収入が100万円だった場合、8万9500円を著作権保有者に払うとの合意である。内訳はドラマのシナリオライターに2.8%、俳優に3.0%、音楽に1.35%、レコードに1.8%だ。ストリーミング配信を前提とした数字で、来年3月までの暫定ルールとなる。経団連はさらに権利関係者の許諾手続きをスムーズに行うためネット上でシステムを構築し来年度から運用を開始すると今月発表した。「権利のクリアランス」に向けた道筋が見えてきた。テレビ業界が堰(せき)を切ったように動画のネット配信ビジネスに参入すると表明したのはこうした理由からだ。
芸術・文化とは言え、収益にかかわるこうした権利調整となると文化庁など官僚では仕切れない。権利調整という少々生臭い役回りを経団連が買って出たのは、おそらく政府筋から依頼を受けてのことだろう。実は、経団連とメディアの関係は浅くない。前記のニッポン放送の設立(1954年)にかかわったのが経団連で、当時副会長だった植村甲午郎氏がニッポン放送の社長に就く。植村氏は後に日本航空社長になる人である。また、海外メディアの特派員に対し取材のサポートを行っているフォーリン・プレスセンター(FPC)は経団連と日本新聞協会とが共同出資でつくった財団法人(1976年設立)だ。これは意外と知られていない。
民放の黎明期、海外メディアの窓口、そして放送とインターネットを結ぶための著作権処理と時代のニーズに応じてメディア業界にその存在感を示してきたのが経団連だった。メディアだけではない、産業界の「仕切り役」なのである。
⇒22日(金)朝・金沢の天気 曇り
新聞報道によると、記者会見したTBSの取締役は「番組出演者らの権利処理などの課題解決に向けた議論も進んでおり、積極的に展開したい」と述べた(21日付朝日新聞)。TBSはすでに、CMをとって番組を無料でネット配信するUSENの「GyaO」(ギャオ)にニュースの動画コンテンツを提供しており、配信のノウハウを着々と構築してきた。ある意味で満を持しての記者会見だったろう。
一方でTBS取締役が「権利処理などの課題解決に向けた議論も進んでおり」とわざわざコメントしたのには背景がある。日本経済団体連合会(経団連)=写真=を調整役とした権利処理の動きが急速に進んでいるのだ。ことし3月に音楽、映画、放送など著作権関連団体と、映像コンテンツ関連の9団体で構成している利用者団体協議会が協議し、「最も権利関係が複雑」とされるテレビドラマのブロードバンド配信の際の使用料率を「情報量収入の8.95%」と合意した。配信による収入が100万円だった場合、8万9500円を著作権保有者に払うとの合意である。内訳はドラマのシナリオライターに2.8%、俳優に3.0%、音楽に1.35%、レコードに1.8%だ。ストリーミング配信を前提とした数字で、来年3月までの暫定ルールとなる。経団連はさらに権利関係者の許諾手続きをスムーズに行うためネット上でシステムを構築し来年度から運用を開始すると今月発表した。「権利のクリアランス」に向けた道筋が見えてきた。テレビ業界が堰(せき)を切ったように動画のネット配信ビジネスに参入すると表明したのはこうした理由からだ。
芸術・文化とは言え、収益にかかわるこうした権利調整となると文化庁など官僚では仕切れない。権利調整という少々生臭い役回りを経団連が買って出たのは、おそらく政府筋から依頼を受けてのことだろう。実は、経団連とメディアの関係は浅くない。前記のニッポン放送の設立(1954年)にかかわったのが経団連で、当時副会長だった植村甲午郎氏がニッポン放送の社長に就く。植村氏は後に日本航空社長になる人である。また、海外メディアの特派員に対し取材のサポートを行っているフォーリン・プレスセンター(FPC)は経団連と日本新聞協会とが共同出資でつくった財団法人(1976年設立)だ。これは意外と知られていない。
民放の黎明期、海外メディアの窓口、そして放送とインターネットを結ぶための著作権処理と時代のニーズに応じてメディア業界にその存在感を示してきたのが経団連だった。メディアだけではない、産業界の「仕切り役」なのである。
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