自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆デジタルアーカーブの勃興

2005年07月18日 | ⇒ランダム書評

  ブログが全盛期だ。では、その先、あるいは次に来るものは何か、それはデジタルアーカイブではないか…。そう予感させる本が「デジタルアーカイブの構築と運用」(笠羽晴夫著・水曜社)だ。なぜそう思うかというと、デジタルアーカイブはとても日本人の性格に合ったジャンルだからだ。今回は、それを解きほぐしてみる。

   笠羽氏は財団法人デジタルコンテンツ協会の研究主幹で、著書では日本のデジタルアーカイブの現状を手引書ふうにまとめ、分かりやすく解説している。それによると、アーカイブ(archives)はもともと公文書や古文書保管所、文庫などの意。これが転じて、記録・整理の活動など広意義に使われている。テレビ映像では「NHKアーカイブス」が知られ、過去に放送した番組をストックしておき、タイムリーに再放送する、といったイメージがある。デジタルアーカイブはその記録保存を静止画、動画、音声のデジタル手法で取り込んだものである。

   具体的に言うとデジタルアーカイブとは何か。笠羽氏はこんな分かりやすい例を上げている。週刊「明星」の50年分の表紙601枚をデジタルで保存することはもちろん可能である。それを年代順に並べてみると「芸能の顔」の50年史が読めてくる。つまり、人によってはノスタルジーという感情もさることながら、日本における芸能史、景気循環と芸能の傾向など、学問分野への切り口や発想も生まれてくるのではないか。50年というスパンと601枚の表紙から湧き上がってくるイメージはそれほど奥深い。

   問題点もある。それだったら個人がストックしている「明星」の表紙をアーカイブしようと個人がヤル気になってアップロードしてもこれは著作権や肖像権に引っかかり難しい。芸能人に求める許可と肖像権、それに撮影者・出版社に対する著作権をクリアする時間とコストを勘案すると個人では不可能に近い。しかし、アーカイブの対象が自分で集めた昆虫標本や雲の写真、先祖代々が持っているコレクションなど著作権を離れたものだったら可能性は大いにある。

   私が冒頭で「日本人に性格に合っている」と言ったのは、いろいろなジャンルのコレクターが日本人には多いからだ。ブログのように、アーカイブ用のテンプレートが立ち上がれば、そうした日本のマニアックな土壌とマッチして、ネット上で私設資料館や博物館、ミュージアムのサイトがどんどんと生まれてくるに違いない。その延長線上に、貴重な写真や映像のコピー販売といったビジネスも見えてくるはずである。

   著書では、すでに作家の死後50年を経て著作権がフリーとなった小説などをネット上で公開している電子図書館「青空文庫」などを事例として紹介している。ここを読んだだけでも、多種多様なデジタルアーカイブの可能性が具体的なイメージとして浮かび上がってくる。

⇒19日(火)朝・金沢の天気  くもり      

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