自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「宮本武蔵」がやってきた

2005年07月10日 | ⇒キャンパス見聞
  金沢大学の五十周年記念館「角間の里」(再生古民家)にはいろいろなゲストが訪れ、そして言葉を残していく。この人の言葉も印象深い。大英博物館名誉日本部長のヴィクター・ハリス氏である。ハリス氏は日本の刀剣に造詣が深く、宮本武蔵の「五輪書」を初めて英訳した人だ。日本語は達者である。「この家は何年たつの?えっ280年、そりゃ偉いね。大英博物館は250年だからその30年も先輩じゃないか…」


  ハリス氏はアジア・スポーツ研究会の招きで9日、金沢を講演に訪れた。会場の「角間の里」のセミナールーム=写真・右=は板の間である。床の間には山水画の掛け軸がかかり、宮本武蔵を語る雰囲気としては最適だ。テーマは「日本人の身体文化~ものつくりと美意識~」。その講演内容を簡単に紹介しよう。大英博物館はその歴史の中で、少なくとも2回「日本買い」に入った。一度は、江戸時代から明治維新に時代が変わったとき。あと一回は太平洋戦争の日本敗戦の直後である。時代が変わると人々の気持ちや価値観も変わる、その時が「買い」なのだという。明治維新のときは刀剣や浮世絵、陶磁器など。終戦後は鎌倉、室町時代の仏像などだ。

  「一外交官の見た明治維新」の著者として知られるアーネスト・サトウは写楽の浮世絵のファンだった。日本で買い集めた40点を持ってイギリスに帰国した。大英博物館はその40点をそっくり500ポンドで買い付けた。そのように個人から買い集めた美術品や、2度の「買い」などに得たコレクションはざっと2万点、1990年には大英博物館に日本館が完成し、いまでは日本人ツアー客の人気コースとなっている。広い意味で言えば、日本の美術文化を紹介するショーウインドーがロンドンにあると思えばいい。

   ハリス氏は、「己(おのれ)」を作品に入れない自然体にこそ日本の美術の本質がある、という。日本の刀剣も、鉄を焼き鍛えた、つまり、熱と鉱物元素が融合した究極のフォルムがあの独特の「そり」なのである。焼物にしても炎と土と灰釉のなせる自然の美である。これは、剣の道にも通じていて、宮本武蔵が死ぬ1週間前に書き上げた五輪書にも、「無念無想」、あるいは目の前から「くもり」を払って見える「空の悟り」を得て、人は「無敵」となる、との内容が書かれてある。そして、剣の最高の技も究極の自然のフォルムに仕上がっている。この先人が切り拓いた「カタ」を体得する、これが剣の修行の確かな道である、と。

   質問に応じたハリス氏は最後に苦言を呈した。日本の剣道は精神文化の一つの行き着く先でもある。それを、国際的なスポーツにしようと意識する余り、勝ち負けという小さな世界に押し込めるのはいかがなものか、と。「ヨーロッパで剣道を始める人のほとんどは、勝ち負けを超えた、その精神性にあこがれて入門している」とも。ハリス氏の言葉には「日本人よ、もっと自信を持て」とエールが込められているようにも聞こえた。

⇒10日(日)朝・金沢の天気 くもり
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