自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★続・「廃校」で学ぶ未来可能性

2019年06月10日 | ⇒キャンパス見聞

  能登半島の尖端にあり、小学校の廃校舎を活用している金沢大学能登学舎で、2007年に始めた人材育成プログラムが今月から第4フェーズに入る。プロジェクト名を「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」と改称し、国連のSDGsの考え方をベースに里山里海の持続可能性を学ぶカリキュラムを提供していく。経緯を少し詳しく述べたい。

  能登は自然環境と調和した農林漁業や伝統文化が色濃く残されていて、2011年には国連の食糧農業機関(FAO)から「能登の里山里海」が日本で最初の世界農業遺産(GIAHS)の認定を受けるなど、国際的にも評価されている。一方で、能登の将来推計人口は2045年には現在の半数以下になるとされ、深刻な過疎・高齢化に直面する「課題先進地域」でもある。新しい社会の仕組みをつくり上げる、志(こころざし)をもった人材が互いに学び合い切磋琢磨することで、未来を切り拓く地域イノベーションが生まれることの期待を人材育成プログラムに込めている。   

  マイスタープログラムを始めた当初は、名称が「能登里山マイスター養成プログラム」だった。里山の保全と活用を有機農業や生物多様性といった環境分野で農業に取り組みたいという受講生が多く集まった。2012年から「能登里山里海マイスター育成プログラム」に改称した。2011年3月に東日本大震災に見舞われ、社会の意識が「持続可能な社会」「持続可能な暮らし」へとシフトし始めた。このころから、より多様な分野の社会人が参加するようになった。女性の受講生も増えた。卒業課題研究のテーマも福祉・健康やまちづくり、アートなど多彩なアプローチで能登の里山里海の可能性を追求する内容に広がってきた。

  マイスタープログラムの取り組みは、国連で定めた持続可能な開発目標であるSDGsに資すると評価を受け、昨年6月に珠洲市が申請したマイスタープログラムと連携するコンセプトが内閣府の「SDGs未来都市」に認定された。これを機に、能登半島がSDGsの世界的な先進モデル地となることを目指すコンセプトにしようと、「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」としてリニューアルした。

  学びの内容もこれまでの本科コースとは別に、新たに専科コースを加えた。マイスタープログラムの修了生やキャリアを持った社会人がアントレプレナーとして活動できるよう、事業化や研究を支援する。能登学舎に設置された「能登SDGsラボ」(金沢大学理事と珠洲商工会議所会頭が共同代表)との共創が狙いでもある=写真・2018年10月撮影=。また、地域の金融機関と連携して起業家を育てる教育プログラム「能登里山里海 創業塾」も開講する。

   未来可能性とはアップサイクルのこと。能登暮らしに満足してはいない、かと言って決して先端を走っているわけでない、一周遅れのトップランナーたちが新たな価値と有用性をどんどん産み出す、そのような人材育成プログラムに期待したい。新たなプログラムの入講式は今月22日に能登学舎である。

⇒10日(月)夜・金沢の天気    あめ

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