きょう(29日)の読売新聞夕刊で「地域限定5G新設」の記事がスクープされている。「5G」は第5世代の無線通信で、現行の100倍を高速通信が可能になり、あらゆるものがネットにつながる「IoT」のインフラとして期待されている。記事によると、過疎地における遠隔医療や自動運転のモデルとして地域限定で新設していく。この記事を読んで放送と通信の同時配信へのチャンスが訪れたのではないかと考える。 今月4日付「月刊ニューメディア」のメールマガジンに5Gと放送の可能性を考えるヒントがあった。編集長の吉井勇氏の許可を得て、以下紹介する。10月3日、早稲田大学の大隈記念講堂大講堂でNAB(National Association of Broadcasters=全米放送事業者協会)のゴードン・スミス会長が「変革の時代にこそ変化をつかむ」をテーマに講演を行った。NABは米国のテレビ5百社とラジオ9千社で成る団体で、80年の歴史を持つ最古にして、最大の放送事業社団体。日本で言えば、日本民間放送連盟に相当する。
ゴードン会長は「変化の時代」について、電波のスペクトラムと通信によるインターネットサービスのコンバージェンス(convergence=共通化)であると述べた。この変化に対し、放送業界は新技術を含めた積極的な投資を行い、新たなビジネスモデルを生み出せ、と話しを切り出した。
アメリカの場合、電波の割り当てを入札方法による有効活用のチャンスを拡大している。これまで放送事業者に優先分配されたものから、もっと通信事業社に提供しようという政策転換で、放送用が大幅に減らされてきている。また、放送方式を地デジはATSC1.5という規格だったが、今度はATSC 3.0に変えることを決めている。この方式の特徴は現在の普及している方式と互換性がないこと。アメリカは大胆に構造転換を図る。その代り、この次世代テレビ方式は「柔軟性に富み、高画質、ネットとの親和性によるアドレッサブル(addressable=個別配信)の番組やCMの新サービス、革新的なオーディオ、そして命を守るための災害時などへの緊急放送など」を挙げている。つまり、放送方式をIPベースにチェンジしたことで大きなメリットに繋がるベースを築いた。
ゴードン会長は「こうした新技術の導入が、ローカルコミュニティへの貢献であり、ジャーナリズムの表現の自由により真実を伝えるという放送本来の役割を実現することに貢献する」とデジタル技術変革の時代について、その基本の考えを示した。講演内容は格調高いものだった。世界のさまざまな場で語ってきたことで鍛えられた内容であり、非常に洗練されたものだった。ビジョンを示すことで、先が見えにくい変化の時代を前に進むことを後押しするという役割をNABが担っているという矜持を感じさせるものだったという。
メールマガジンでは「ただ一つの不満」として、世界のIT巨人がブロードな技術を使ってコンテンツ提供サービスへ意欲を示し、多チャンネルサービスを展開しようという巨大な波に放送事業者はどう迎えるのか、どう戦うのかと問題提起も付け加えている。
日本では12月1日から「4K・8K」放送が始まる。8Kがもたらす革新の映像だろう。これも5Gとの相乗効果が得られる「変化の時代」になるかもしれない。アメリカのようなダイナミックな構造転換は日本のテレビ業界では可能なのか。ただ、日本ではインターネット広告費が4年連続二ケタ成長であるのに対し、テレビは前年比99%と減少傾向にある(2017年・「電通」調べ)。数年後にはテレビはネットに抜かれる情勢だ。民放テレビ局が逆境にある中で、5G突入の時代をどう乗り切るのか、伸るか反るかの大勝負に出るのかどうか、見どころだ。(※写真は、ヴァチカン美術館のラファエロ作『アテネの学堂』。プラトン(左)が指を天に向けているのに対し、アリストテレスは手のひらを地に向けている)
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