金沢大学で担当している共通教育科目「マスメディア現代を読み解く」の講義はきのう(1日)最終回だった。6月13日に第1回があり、毎週水曜日の4限目(午後2時45分-4時15分)に震災、記者会見、著作権、インターネットとマスメディアの関わりをテーマに8回の講義(1単位)。受講生は112人で理系から文系、1年から4年の学生が聴講してくれた。最終日のリアクション・ペーパー(感想文)では、これまで8回の講義で印象に残っている言葉(キーワード)や画像、映像などを3点あげ、それぞれ一言のコメントを書いてもらった。
「記事では形容詞を使わない」「インターネットは巨大隕石」って何だ
講義の中で、学生たちの印象に残ったことの一番(44人)は「震災とメディア」(6月20日、27日)の講義の中で見てもらったノーカットの映像(KHB東日本放送制作「3・11東日本大震災 激震と大津波の記録」から)だった。KHB(仙台市)にも大きな揺れがあり、記録に残そうと必死にカメラを構える記者とデスク、悲鳴を上げながらもマスターカット(緊急放送)に備える報道フロアの様子がリアルに写し出されている。同じく、気仙沼市の支局カメラマンが津波が押し寄せる街中でカメラを回し続けている。足元に津波が押し寄せている。学生たちのコメントは「忘れかけていた震災をもう一度思い出させてくれ、自然災害の脅威を改めて感じました」(法・1年)や「命が危険な状況にあるにもかかわらず、報道するために津波の映像を撮っていた姿にいろいろ考えさせられた」(国際・2年)とショッキングだったようだ。
二番(16人)は3つあった。「メディアも被災者である」「フェイクニュース」「インターネットは巨大隕石」。「メディアも被災者」は前述の講義の中で述べた言葉だ。東日本大震災のように広域な災害では、マスメディアの記者やカメラマンも被災者となる。しかし、報道し続けなければならないプロの論理がある。第8回「マスメディアはどこに向かって行くのか」(8月1日)で、フェイクニュースについてこのようなことを述べた。インターネットの社会でフェイクニュースはあふれるようようになってきた。では、ファクトチェック(事実確認)を行う機関はメディアなのか政府か、ヨーロッパでは意見が割れている。「現代こそフェイクニュースと向き合うメディア・リテラシーが必要な時代はない。そして、フェイクニュースと戦うのはマスメディアの使命ではないだろうか」と。「インターネットは社会に落ちた巨大隕石」は、ソニー元会長・出井伸之氏が述べたたとえ。6500万年前、ユカタン半島(メキシコ)に落ちた巨大隕石が地球上の恐竜を絶滅させたといわれるように、インターネットがマスメディアなど既存産業にも打撃を与えている。自らネット社会に応じた改革が出来なければ、メディアも恐竜がたどった道を歩む、と講義した。
その次のキーワードは14人がマークした「形容詞は使わない」だった。第6回「マスメディアの技術」(7月11日)で、記事では形容詞は使わないのが原則と述べた。形容詞は主観的な表現であり、言葉に客観性を持たせるには、たとえば「高いビル」とはせず、「10階建てのビル」などと数字を用いて言葉に説得性を持たせる。これがメディアの技術だ、と。この言葉は学生たちにとって新鮮だったらしく、学生たちの反応は、「小さいころからうまい形容詞を使うとほめられたが、確かに新聞では形容詞を見たことがない。でも、形容詞を使わない文章って難しそうだ。大学の論文でも形容詞は使わないですよね、目が覚めました」(法・1年)と。何気なくマスメディアと接してきた学生たちにメディアからの学びとリテラシーを感じてほしいとこの講義を10年余り続けている。
⇒2日(木)夜・金沢の天気 はれ
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