「悪貨」島田雅彦 講談社 2010年(書き下ろし)
悪貨は良貨を駆逐するのだろうか。偽札100万円を与えられたホームレスの末路から物語は始まる。マネーロンダリングを追う警察、脱資本主義を目指す(?)彼岸コミューン、日本円の大量の偽札流入、島田雅彦の広げた大風呂敷の行方は・・・
うーむ。面白いか面白くないか、その質問に答えられない。いや、日本語を忘れたわけじゃないんだが、たぶん。いや、日本語しょっちゅう忘れてるんだが。
小説が、読者の私を右へ左へ翻弄する、<極めて気まぐれでやっかいな女>のようなものであるべきだとすれば、本書は必ずしもそうでもないだろう。小説が<近未来のありそうな姿を、ああそれあるよね、充分ありうるよね>と読者の同意を求めるものだとすれば、本書はまさに小説だろう。小説が主人公に自分を入れて<感情移入しまくる>ものだとすれば、違うだろう。
まあそんな具合に見る方向を変えると、評価も変わる作品なのだ。偽札の作り方や流通のさせ方ならもっと別の小説に詳しく書いてあるが、また、国際謀略なら、共同生活から、・・・なら・・・なら別の小説単体に詳しく書いてあるはずだが、しかしそれら全部が一冊に入っている小説はあまりないだろう。
ラストも、「え?そうなるの?」という結末だった。嫌いじゃないけど、それ以外の別の人たちがどうなったのかは知りたい。特に彼岸コミューンという試みには強い興味を持ったので、それについては後日談を読みたい。倍ぐらいの量にして、政治哲学宗教をもっと詰め込んでくれたほうが、私はより堪能できたように思う。でも読んでよかったとも思う。
普通に小説をただ読んで、「あー面白かった」で2時間後には忘れているというような娯楽ではない娯楽を求めている人にオススメである。
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