「両目義眼ですが散歩が大好き」…全盲の犬、障害持つ子らの合唱団「名誉メンバー」に
2022/03/19 18:36
(読売新聞)
視覚や聴覚に障害のある子どもたちらでつくる東京の合唱団に、広島県神石高原町の動物保護団体に引き取られていた全盲の犬が「名誉メンバー」として加わった。合唱団の芸術監督を務める女性が全盲犬を譲り受け、世話をしている。障害があることへの理解は十分に広がっているとはいえず、女性は「活動の様子を知ってもらい、豊かな個性に目を向けてほしい」と話す。(落合宏美)
犬は雄の雑種「ウヴェ」(推定5歳)。2016年に、広島県動物愛護センター(三原市)が野良犬として保護した。体格などから生後約1か月とみられ、両目は見えていなかった。
治る見込みがない病気があると殺処分対象となるため、同センターは犬の譲渡先を探す保護事業などに取り組むNPO法人「ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)」(神石高原町)に相談し、引き取ってもらった。
ウヴェは網膜などが正常に発達しない「網膜異形成」という病気と診断され、手術で両目を摘出して義眼になった。手術後は、スタッフらの献身的な看病で警戒心も薄れ、慣れた場所ではぶつからずに歩けるようになった。
しかし、障害のために「かわいそう」「世話が大変そう」と敬遠され、なかなか引き取り手が見つからなかった。PWJは、「保護犬の中でも、障害のある犬は引き取り手が見つかりにくい」とする。
5年後の昨年2月、PWJの活動を見学するために東京から訪れた合唱団「ホワイトハンドコーラスNIPPON」の芸術監督、コロンえりかさん(42)は、ケージに掲げられた紹介カードを偶然目にして足を止めた。
「両目義眼ですが 散歩が大好き」
「ウヴェ」と名前を呼ぶと元気にケージから出て駆け寄ってきた様子に、すぐ引き取ることを決めた。同時に、合唱団の子供たちの顔が浮かんだ。
合唱団は、障害のある子と健常の子が声と手話で一緒に表現する。東京芸術劇場との共催事業として定期的に公演している。
東京に戻り、子供たち約30人にウヴェのことを話すと、「名誉メンバーとして迎え入れよう」と歓迎してくれた。
両目とも弱視でほぼ見えない筑波大学付属視覚特別支援学校6年の男児(12)は「いつかウヴェと一緒に舞台に立ってみたい」と声を弾ませる。障害に対する偏見で、傷ついた子供たちは多いという。男児は「障害者も健常者も、お互いを知って、理解し合うことが大事だと思う」と話す。
昨年12月、ウヴェは合唱団の公式ツイッターのアイコンに初めて登場した。コロンさんは「今後、ウヴェと子供たちの交流の様子など生き生きとした姿を発信し、自分と違うことを認め合う大切さを伝えたい」と語る。
殺処分 初めて5000匹下回る…昨年度国内
環境省によると、障害のある犬も含め、国内で保護された犬は2020年度は2万7635匹で、同年度に個人やNPO法人へ譲渡されたのは1万4736匹だった。保護された犬は通常、自治体が運営する動物愛護センターや保健所に一時的に預けられ、保護団体などに引き渡される。
新たな飼い主に譲渡する活動に取り組む非営利団体も増え、昨年4月時点で5年前の2倍以上、1129団体に上る。
ケガや病気が治る見込みがなかったり、攻撃的で飼育が困難だったりすると殺処分されるが、近年は保護団体の活動が盛んなこともあり、20年度の殺処分は1974年度以降で初めて5000匹を下回る4059匹だった。