池波正太郎「梅安冬時雨」講談社文庫 2001年刊
このところ山本周五郎にのめりこんでいるが、さすがにたまには他の作者のものを読みたくなって、本書に眼を通してみた。
なんとなく以前読んだ仕掛け人シリーズと違っているな、と感じつつ読み進んでいくと、突然「絶筆」の表記と共に、正に途中で終了していた。
芸術家は死期が無意識のうちにわかるのか。
そういえば、石原裕次郎も最後の曲は声に張りがなかった気がする。
本編も筋の運びで、季節の移ろいが早い。登場人物が多いし、過去に出てきた人にも触れている。それと今までの本シリーズより筋立てが複雑のように思える。
また梅安の治療所も新築拡大したり、古い縁のある女性との関係を精算していたりする。シリーズの終焉か、自分の人生の終わりか、とにかく一区切りを意識しているように思う。
結末をはっきりイメージして筋を運んでいるのか、まだ成り行きで展開がどうなるのか著者自身にも決めかねていたのか、多分前者であろうけど、ちょっと拡大し過ぎの感があった。
それにしても、惜しまれる。
正に酸いも甘いも噛み分けた作家が存在していたんだ、としみじみと思い出した。