山本周五郎「雨の山吹」新潮文庫 昭和五十七年刊
このところよく読んでいる山本周五郎の短篇集。この著者の短篇集も色々読んできたが、よくわからない、と思うものが2,3篇混じっているのが多かったが、本書は10篇とも傑作である。特に表題作は余韻が残る。
以前は戦中に書かれたものが入っていたせいかなあ。
主題はほとんど違わないが、心もちのびのび書かれているような気がする。
一途な思い、ひたむきな生き方などがテーマである。欲得ずくに流される脇役に対し、義や忠に生きる主人公を描く。この短編集は全て男女の葛藤が主題である。
現在の打算と功利が主な行動原理になっている世相に対し、「もっと大事なものがあるぞ」と痛烈に批判しているように見える。
勿論著者にそんな気はなかったのだろうが、人間の生き方について、明かりを示しているようだ。
読後感の清々しい一遍であった。