乃南アサ著「凍える牙」新潮文庫 1996年刊
96年の直木賞受賞作品。人物造形、心理描写が巧みだと言われている著者の、女刑事音道貴子シリーズである。
颯爽とした刑事物とおもいきや、女刑事の日常生活上のグズグズとした心理的葛藤を絡めて(これが私には少し冗長だと思うのだが)リアリティを醸し立たせている。
刑事の地道な苦労を丹念に描き(女性の会話はこれに似ている)、筋立て、やトリックの意外性で惹きつける小説ではない。たしかに、人物造形や心理描写はレベル以上のものがある。
この本に限って言えば一番颯爽としているのは、オオカミ犬だ。まるでゴルゴ13を彷彿とさせる。
この前借りた沢山の本の中の一冊だが、佐伯泰英の時代物とは別の、また矢月秀作のハードボイルド刑事物とは違った、どちらかと言えば藤田まことの「はぐれ刑事純情派」タッチの女刑事ものだ。
しかし畏友はジャンルが広い。時代物、妖怪モノ、謎解きもの、ハードボイルド、江戸エッセイと多岐にわたっている。聞けば百田尚樹も読んでいるそうだ。