遅いことは猫でもやる

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まともな感覚

2016-08-16 00:45:56 | 


垣谷美雨「70歳死亡法案、可決」幻冬舎文庫 2012年刊
「世の中の役に立たない老人は70になったらとっとと死ね」というような荒唐無稽な小説ではない。それでは先日の相模原障害施設の犯人と同じ発想である。
しかし、高齢化社会の進行は確実にいろいろな歪を生む。しかも現実の政権下では若者の正社員就業難や、ブラック企業の存在、介護職の過酷な現場の問題は山積している。

この小説はそれに加えて専業主婦の問題にまで踏み込む。というか其処が主たる舞台だ。主婦業という逃げ場があると皆ダストシュートのように周りがそこに全てを投げ込む。肉体的なことよりその孤独感からくる精神的なプレッシャーがきつそうだ。
それらをバランスよく、的確に取り上げ、問題点をうまく描く。この辺りの著者の感覚はかなり常識的だ。

考えてみれば、日本中の企業にある定年制で、サラリーマンはどれだけ救われていることか。70歳死亡法案は言ってみれば人生の定年制みたいなものだ。しかし現実に設定してみるといろいろな問題点が浮かび上がってくる。
その最大点は余生の20年限定化である。それをどう過ごすか。目に見える期限が示されたことで人生について深く考える機会が与えられる。

物語の結末はちょっと安易のように見えるが、作者の言いたい結論は、「他人にむやみに依存するな。己でやれることは極力自分でやろう。どうしてもできないことは他人に頼ろう」というシンプルなものだ。今の誰かに尻拭いさせようという制度は確かにおかしい。
言われてみればその通りだ。

この小説はあらゆる意味でまともである。奇をてらったものではない。避けることの出来ない社会構造に正面から取り組んだとも言える。自分自身の生涯を考えるきっかけともなる。