恩田 陸「蜜蜂と遠雷」幻冬舎 2016年刊
このところ天候不順である。家の中にいることが多くなり読書時間が大幅に増えた。そんなわけでもないが、かねて読みたいと興味を寄せていた本を買ってきて広げてみた。
面白い。思わず一気に読んだ。ピアノコンクールを舞台に、応募者がそれぞれ、音楽に向き合い、取り組む姿勢、葛藤、外部の評価と自己主張が対峙する。逡巡、自己卑下、克服、成長など様々な要素をはらみながら、一次、二次、三次予選、そして本選へと駆け上がってゆくコンテスタント(コンクール参加者)、敗退する者などを描く。
審査員、支援者などの外部の目も借りながら、演奏者内部の心理に踏み込みつつ、演奏の様子を繰り返し、繰り返し、それぞれの段階で、4人の主な登場人物を表現する。4者4様に、それぞれの段階に合わせて演奏状況を描写するのは至難の技だと思われる。
著名な国際コンクールとあって、応募者は音大の学生だけでなく、既に実績のある著名人、天才肌の弟子、ジュリアード音楽院の学生なども含まれる。それらの人物が演奏するさまを描写するのは、まるで交響曲が一つのテーマを繰り返し少しずつ変えながら次のテーマへと誘うのに似ている。まるで文字の交響曲を奏でているようだ。
音楽を文字で表すことに果敢に挑戦しているかのような本作品は、さすがに直木賞、本屋大賞のW受賞作だけのことはある。お薦めの1冊である。