
湊かなえ「望郷」文春文庫2013年刊
6篇の短編集。白綱島(実在する因島を題材としている)に生きる様々の人々をテーマに、みかん農家の姉妹、父が行方不明になった母・息子、都会を夢見るも平凡な主婦に収まる女生徒、島から出た若手歌手の帰還、島に戻り小学校で交流をする二人の女生徒、親子2代の教師など、それほど特殊ではない人たちの日常を描きながら、そこにあるちょっとした謎、あるいは成り行きの原因を解き明かす。
この著者の日常生活の描写力、その中での人物の心理の動き、などはなんでもないように見えるが恐ろしく無駄がない。これはプロと言うほかはない。一流の才能を持っているのだろう。この作品、正確には収納されている「海の星」は日本推理作家協会賞を受賞しているが、業界のプロの目から見ても十分評価に値するものなのだと納得してしまう。
面白い一冊だった。