原田マハ「本日はお日柄もよく」徳間文庫2012年刊
旅屋お帰り、楽園のカンバス、翼をください、などどれもホロリとする語り口でしかも自然である。本書はスピーチライターという(日本にもあったらいいなと思われる)仕事についた女性の物語である。
友人の結婚披露宴で感動的なスピーチに出会って以来、そのスピーカーに惹かれ、とうとう弟子入りしてしまう。そして政治家のスピーチライターになって、強力なライバルと競う。大雑把にはこんなストーリーだ。
面白い設定で、わざとらしさが少なく、いつもながらの語り口に引き込まれた。登場する人物のキレの良さ、潔さが彼女の真骨頂であろうか。惜しむらくは、この本の最初の3つのスピーチはさすがと思わせるが、後半のスピーチはそれに比べると能書きの割には冴えていない。
しかし私はこの作家が好きである。何よりそのセンスが良い。主張する生き方に共鳴するものがある。この本でもこんなセリフを吐く。
「困難に向かい合った時、もうダメだ、と思った時、想像してみるといい。
三時間後の君、涙がとまっている。
二十四時間後の君、涙は乾いている。
二日後の君、顔を上げている。
三日後の君、歩き出している。