玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

神様・長谷川龍生

2009年02月04日 | 日記
 昨年十二月十四日に、画家の木下晋さんが柏崎を訪ねてくださった時、越後タイムス同人で運営する文学と美術のライブラリー「游文舎」で仲間を集めて歓迎することにした。いつものようにバカ話ともシリアスな話ともつかない歓談を続けているうちに、木下さんは突然「長谷川龍生に電話しよう。柏崎に講演に来てもらおう」と言いだしたのだった。
 私の携帯電話をつかって長谷川氏に電話し、いきなり「今、柏崎にいるんだ。講演に来てほしい」と単刀直入の早業だった。木下さんは例のひとなつこい笑顔で「オレはこんなサプライズが好きなんだ」と得意そうだった。
 長谷川龍生氏といえば、戦後の現代詩をリードしてきた巨人で、現在六十歳、七十歳代で詩に関わっている人々にとっては“神様”のような存在である。そんな“神様”のような人と電話で口を利いてしまった。直接講演のお願いをすると一発でOKだった。
 長谷川氏は昭和三年大阪市生まれ。小学校を卒業する頃には夏目漱石全集を読破していたというから、“神童”の呼び名がふさわしい。そんな幼少の頃からの言語感覚の錬磨が戦後詩を代表する作品を生んでいっただけでなく、コピーライターとしての才能も開花させた。
 東急エージェンシーの広告企画部長をつとめたこともあり、その時の部下が現在のタイムスの相棒である。彼によると当時はコピーライターとしても“神様”のような存在だったという。交友関係もすごい。堤清二は友人だというし、田辺聖子は教え子、開高健、安部公房も友人だったという。
 そんな“神様”の講演会を七月十八日に柏崎で実現できることになった。新宿のダンボールハウスの住人達の間にもファンがいるという“神様”のお話が楽しみである。しかし残念ながら、長谷川氏の詩集は現在一冊も新刊で発行されていない。古本で手に入れるしか方法はない。

越後タイムス1月30日「週末点描」より)