玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

亡霊化したサクラ

2013年08月27日 | 日記
 庭のモミジの木に黄緑色の美しい毛虫が大発生して葉を食い尽くしてしまった。この毛虫、イラガというやつで、刺されると大変痛いので触ってはいけない。上の方の葉を食い尽くすと、そいつらは幹を伝って下に降りてきて、股のところでUターンして新たな食糧を求めて登っていく。そんな姿を見ていて“貪欲なやつらだ”と思った。
 貪欲といえば、イラガよりもアメリカシロヒトリがすごい。庭や公園で発生して、山野にはいないというが、今年は里山の木も多くやられている。ニセアカシアやネムの木、クルミなどが餌食になっていて痛ましい。
 彼らは特にサクラが好物のようで、ソメイヨシノがいたるところでやられている。かなりの巨木が丸ごと葉を食い尽くされている姿を見ることもある。アメリカシロヒトリは“天幕”(幼虫の巣)というものをつくるので、木全体がクモの巣で覆われたような惨状となる。
 まるでソメイヨシノの亡霊である。クモの巣状の天幕が幽霊のボロボロな衣裳のように見えて薄気味が悪い。ボロの間から幼虫が降ってきそうで悪寒が走る。イラガは葉を食うだけだが、アメリカシロヒトリは木全体を亡霊化するので、特に人間に嫌われるのだ。
 アメリカシロヒトリのヒトリというのは、ひとりで行動するから付けられた名前ではもちろんない。漢字で書くと“火取り”。成虫は好んで火に群がる性質を持つ。春先に幼虫がよく道路を横断するヒトリガの仲間だ。
 ところで、アメリカシロヒトリを略して“アメシロ”と言ったり、“アメヒト”と言ったりするが、“アメヒト”は不敬っぽいので“アメシロ”に統一したほうが良いと思う。

越後タイムス8月29日「週末点描」より)

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美味しいウズラ

2013年08月27日 | 日記
 さいたま市在住の友人が一年間パリで暮らした時の日記をまとめて本にしたので読ませてもらった。ヨーロッパにおける日本食ブームとその現状について詳しくレポートされているので、興味深い。
 寿司店もパリにはたくさんあり、他のヨーロッパ諸国でもブームということだが、そのほとんどが中国系、韓国系の経営によるもので、出されるものは寿司とは似て非なるものばかりだということだ。日本食のブームに乗じて、寿司のにぎり方も知らず、ネタの良し悪しも分からないのに、もうけのためだけに寿司店を開くのだ。
 日本食をユネスコ文化遺産にしようという動きがあるが、こうした実情が背景にある。その気持ちは分かるが、“日本食”といってもあまりに漠然としていて、定義してみようがない。それよりも最も人気の高い寿司を文化遺産にして、国際規格をつくった方が良いと思う。
 友人の日記を読むと、パリのスーパーマーケットで日本の食材のほとんどが手に入ることが分かる。調味料は醤油だろうが味噌だろうが売っているし、魚だって鯖や鱈、イカ(海はつながっているか)、野菜も大根、白菜、いんげんなど、何でもある。アパルトマンで自炊すれば、毎日日本食を食べて過ごすことだってできる。
 ところで、友人が何度も何度もウズラ料理を食べて“旨い、旨い”と書いているので、取り寄せてみた。三羽で千円。丸裸にして内臓を抜いて冷凍してある。塩コショーだけでシンプルに焼いて食べてみた。鶏肉も皮が美味しいが、皮と肉のバランスが良くて大変美味である。しかし、小さ過ぎて、ろくに食べるところがない。
 調べてみると、フランスのウズラは日本のウズラより大きくて、肉も多いという。パリではウズラの丸焼きが名物で、内臓ごと食べるらしい。ぜひ今度はフランス人のウズラを食べてみたい。
 ところでペットショップに行ったら、ウズラが一羽九百八十円で売っていた。死んだウズラの三倍もする。丸々として美味しそうだったが、高いので食用にするのはあきらめた。

越後タイムス8月9日「週末点描」より)

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