弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

Law&Orderに見るアメリカ、成功報酬式弁護士報酬のわな

2012年01月18日 | Law&Order

シーズン19の9話は「偽証による殺人」という、題名からは見当もつかない
ものでした。
このところ司法界のことがテーマになっているように思うとの感想を述べましたが、
そのとおりでした。

今回は、成功報酬方式で事件を受任した弁護士が犯人です。
日本では、成功報酬一本での受任というのは基本的にありません。
ただ、数年前に報酬を自由に決めることができるようになり、私はやっていませんが、
過払金の返還訴訟などでは、成功報酬方式が行われているようです。
ただ、アメリカとは違うのは、過払金の返還は必ず受けられるので、
弁護士にとっては危険は全くなく、おいしい仕事なのです。

アメリカでは集団訴訟が認められており、製造物責任が問題になるケースや
今回の例のような大事故の場合などに利用されています。
日本では、大勢の弁護士が集まって被害者弁護団を結成し、多数の被害者を
集めて訴訟することが最近のパターンになっています。
アメリカでは一弁護士が、費用も一切自腹で、やることが多いようです。
ただし、勝訴した場合は、報酬は3分の1とか3割というのが多いようです。
しかも、アメリカには懲罰的損害賠償というのがあって、これが膨大な金額に
なるので、勝訴した場合は、報酬も膨大なものになります。
ギャンブルのようなものですね。
1件あてれば、一生仕事をしなくても左団扇ですものね。

勝てなければ、一円にもなりません。しかし、こういう訴訟は難しいことが
多いので、費用も膨大なものになります。
弁護士も必死です。
ですから勝てるということもあるのでしょうが、ただ、当初の予想通り行くわけでは
ないので、不利な証拠等が出てきたときに、しかもそれが証人だったりとすると
無視する、抹殺したいという誘惑に逆らえないこともあるでしょう。

ドラマで多く見られるのは、被告となった大企業側が、不利な証人として呼ばれそうな
あるいは呼び出された場合に、解雇するとか退職するなどして妨害することは
良く見られます。
あるいは企業側が殺し屋を雇って殺害ということも良くあります。
今までは、被告企業が不利な証拠や証人の抹殺を図る、被害者側の弁護士は
その妨害を乗り越えていかに勝訴に導くか、そこにドラマがありました。
懲罰的損害は膨大なものになるので、企業によっては破産に追い込まれることも
あるほど、衝撃的ダメージを与えるからです。
なお、懲罰的賠償は原則、本来の損害額の10倍までとされていますが、大企業の
場合は、小さな金額では罰にならないので、例外的に大きな額になるようです。

被害者の原告側はというと、勿論、勝ちたいということはあるでしょう。
しかし、航空機事故のような場合は、ある程度の金額は出るでしょうし、
もともと全く負担がないわけですから、負けても経済的には何も損をしません。
ですから、勝訴にかける意気込みや執念は、企業に比較するとゼロに等しい
わけです。
ですから、原告側で不利な証人を殺害してまでもという動機はあまりありません。

しかし、良く考えてみれば、成功報酬方式だけで活動している弁護士にとって
みると、勝てると思って、時間・労力、お金をかけてきたのに、一人の裏切りで
それが零になるとすると、莫大な報酬に対する邪魔者以外何物でもありません。
したがって、社会的に認められた企業が殺人を犯すのなら、
勝訴にかけた弁護士が殺人を犯すというのは、突飛な考えではないわけです。

ただ、ここは弁護士です。自ら手を下すことなく、法廷を利用して、あたかも正当な
訴訟活動であるかのように装って行われたことです。
素人の原告にはわかりませんし、弁護士しか知らないこともあるはずです。
また、こういう事件の原告は、もともと弁護士主導ですから、あまり関心も
ないでしょう。
ですから、真意を隠し、一見正当な訴訟活動を装うことは、いとも簡単なことです。

3件の殺人が行われたのですが、最後の殺人というのは、
有罪判決を受けて絶望しての自殺(と思うのですが、今回は録画ができなかった
ため、チェックできませんでした。間違っていたらごめんなさい)ですから、常識的には
殺人ではあり得ないです。ただ、2件の殺人を起訴する道が閉ざされたので、
ここにかけるしかないのです。
カッターは意地?しかし個人的なものではなく、正義です。
マッコイはカッターの頑固さにややうんざり気味ですが、やる以上は勝てる理屈を
見つけろとハッパをかけます。
そこで見つけたのが「偽証による殺人」という理屈です。
100年間の判例をみて、あるというのですが、多分そうなんでしょう。
アメリカのドラマをみていると、判事の気まぐれに気付くはずです。
ですから、そういう判例があってもおかしくないですね。
実際にアメリカの判例もみてもそうです。

そのきっかけは、弁護士事務所が禁煙かどうかだったんですね。
そしてまた、そのきっかけは、カッターたちが、現地に出向き、妻との会話だったの
ですね。禁煙していたのにまた始めたというものです(弁護士は
自分の事務所は禁煙だと、うその証言だというわけです。)
カッターたちは、良く現地に足を運びますが、これって本当に大事なことなのです。
重要な事実というのは些細なところに潜んでいます。
些細なことが、「ポワロの灰色の脳細胞」のように刺激するのです。
これはやったことのない人にはわからない感覚です。

判事は、おもしろいということで、当時の裁判の陪審員を証人に呼んで
弁護士の偽証の証言がなかったらどうなったかを質問するのですね。

偽証の結果、有罪になった、有罪になったので死んだ、しかも弁護士は嘘だと
わかって証言したのですから、弁護士の偽証は、
本人の死亡に因果関係があるというわけです。

最後に弁護士がトイレでカッターを銃殺しようとしますが、これって弁護士の
本性をここでみせたわけで、これで視聴者もこの弁護士なら、ありと納得するわけです。
あわせて、危機を救ったのが刑事のルーポだったのですが、
ドラマの冒頭で、カッターが最初の殺人で有罪にできなかったのは、ルーポの
証言のせいだと罵倒しています。
それでも仲間が命の危険に曝されているときは、真っ先に助けるということで
正義の実現にむけて、刑事・検事が立場を超えて
信頼関係で結びついていることの象徴でしょうか。
ドラマ作りもうまいですね。

アメリカのいいところは、本当の原因まで遡って検討するということです。
Law&Orderでは、このように実際に手を出した殺人者だけでなく、
裏で画策した者をいかに裁くかが問われることが多いようです。
利用された者を裁いても、悪はなくならないからです。

最近の検察庁のディスクの書き換え事件についても、実行者である前田判事は
自白して有罪が決まっていますが、
指導、監督の立場にあった部長、副部長は無罪を主張して争っています。
まだ判決は出ていませんが、こういう犯罪については、素人の感覚を生かす
陪審裁判(日本でいえば裁判員裁判)のようなものが相応しいと思います。

アメリカの事件を通して日本を見つめ直すことができ、楽しみです。

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今週のビルの受付のお花です。ピンク系の淡い色で纏まっています。
トルコキキョウはメインです。花言葉は希望です。
他のお花の名前は馴染みがなく、覚えられませんでした。