知的障害児施設:「契約」未収金5700万円 本紙調査
障害者自立支援法に基づき、知的障害児施設の入所児に原則1割の利用料などを課す「契約制度」を巡り、保護者が施設への負担金を払えず、総額5700万円が未収になっていることが毎日新聞の調べで分かった。負担増を理由に退所した子どもも108人に上る。厚生労働省は「経済的事情は考慮しない」としており、負担能力を超えた契約制度の適用が背景にあるとみられる。新制度によって施設が不安定な運営を強いられている実態が浮かんだ。【夫彰子】
◇負担増で退所108人
全国260カ所の知的障害児施設に4月1日現在の未収金などをアンケートし、10日までに195カ所(75%)から回答があった。
回答のあった施設の54%に当たる105カ所で未収金があった。100万円以上が16カ所、50万円以上~100万円未満が25カ所あった。滞納している入所児は427人で、全入所児の16人に1人の割合だった。1施設当たりの未収金平均は約54万円。入所児のうち契約制度を適用された18歳未満の子どもの割合が5割以上の施設では、未収金額は平均63万円と多くなった。
大半の施設は「安易に子どもを退所させるわけにはいかない」と、滞納分を事実上肩代わりし養育を続けている。しかし、契約制度に伴う負担増を理由に、保護者が退所させた入所児は、56施設で108人に上った。
児童福祉法は従来、すべての子どもを公費負担する「措置制度」にしていたが、06年10月施行の自立支援法で、障害児だけは都道府県が措置か契約かを決める制度になった。
厚労省は「親の経済的事情は措置の条件にはならない。滞納世帯の子は施設から契約を解除されても仕方がない」と説明。これに対し、施設からは「家庭での養育が困難だから入所している子どもを、親の都合で退所させるのか」との批判が上がっている。
◇「お金か子供か、究極の選択」…千葉の施設長
「施設は金の取り立て屋じゃない。私たちに子どもを守るという本来の仕事をさせてほしい」。契約制度により膨らむ一方の未収金に、障害児施設職員たちの訴えは悲痛だ。滞納する親の子どもを契約解除するか、保護し続けるか。施設は経営と児童福祉の間で苦しい選択を強いられる。
千葉県のある施設長は今春、「お金をあきらめるか、子どもを退所させるか、究極の選択を迫られた」という。入所する男児(8)の父親は、月約3万円の支払いを1年以上滞納し、未収金は約50万円に上った。
「過去の滞納分として約5000円ずつ上乗せして払う」と約束したのは4月初め。今後順調に支払われても、未収金の解消には10年近くかかる。施設長は「契約制度を作った国、適用した自治体が『民民契約だから』と責任を負わないのは納得できない」と憤る。
アンケートでは「行事参加費を低所得の親に代わり職員がカンパした」「滞納したまま子どもを退所させた親がいる。未収金は施設が負担した」などの回答があった。契約制度の場合は医療・教育費も自費で「子どもが病気になっても病院へは連れて行かないでほしい」と親に言われた施設もあった。
障害者自立支援法に基づき、知的障害児施設の入所児に原則1割の利用料などを課す「契約制度」を巡り、保護者が施設への負担金を払えず、総額5700万円が未収になっていることが毎日新聞の調べで分かった。負担増を理由に退所した子どもも108人に上る。厚生労働省は「経済的事情は考慮しない」としており、負担能力を超えた契約制度の適用が背景にあるとみられる。新制度によって施設が不安定な運営を強いられている実態が浮かんだ。【夫彰子】
◇負担増で退所108人
全国260カ所の知的障害児施設に4月1日現在の未収金などをアンケートし、10日までに195カ所(75%)から回答があった。
回答のあった施設の54%に当たる105カ所で未収金があった。100万円以上が16カ所、50万円以上~100万円未満が25カ所あった。滞納している入所児は427人で、全入所児の16人に1人の割合だった。1施設当たりの未収金平均は約54万円。入所児のうち契約制度を適用された18歳未満の子どもの割合が5割以上の施設では、未収金額は平均63万円と多くなった。
大半の施設は「安易に子どもを退所させるわけにはいかない」と、滞納分を事実上肩代わりし養育を続けている。しかし、契約制度に伴う負担増を理由に、保護者が退所させた入所児は、56施設で108人に上った。
児童福祉法は従来、すべての子どもを公費負担する「措置制度」にしていたが、06年10月施行の自立支援法で、障害児だけは都道府県が措置か契約かを決める制度になった。
厚労省は「親の経済的事情は措置の条件にはならない。滞納世帯の子は施設から契約を解除されても仕方がない」と説明。これに対し、施設からは「家庭での養育が困難だから入所している子どもを、親の都合で退所させるのか」との批判が上がっている。
◇「お金か子供か、究極の選択」…千葉の施設長
「施設は金の取り立て屋じゃない。私たちに子どもを守るという本来の仕事をさせてほしい」。契約制度により膨らむ一方の未収金に、障害児施設職員たちの訴えは悲痛だ。滞納する親の子どもを契約解除するか、保護し続けるか。施設は経営と児童福祉の間で苦しい選択を強いられる。
千葉県のある施設長は今春、「お金をあきらめるか、子どもを退所させるか、究極の選択を迫られた」という。入所する男児(8)の父親は、月約3万円の支払いを1年以上滞納し、未収金は約50万円に上った。
「過去の滞納分として約5000円ずつ上乗せして払う」と約束したのは4月初め。今後順調に支払われても、未収金の解消には10年近くかかる。施設長は「契約制度を作った国、適用した自治体が『民民契約だから』と責任を負わないのは納得できない」と憤る。
アンケートでは「行事参加費を低所得の親に代わり職員がカンパした」「滞納したまま子どもを退所させた親がいる。未収金は施設が負担した」などの回答があった。契約制度の場合は医療・教育費も自費で「子どもが病気になっても病院へは連れて行かないでほしい」と親に言われた施設もあった。