かがわ総合リハビリテーションセンター(高松市田村町、087・867・6008)の「障がい者歯科」は、身体や精神などに障害を持つ方の歯の治療をしている。診療に当たっている歯科医師の三木武寛さん(32)に、一般歯科との違いや特徴などについて聞いた。
−障がい者歯科と一般歯科の具体的な違いを教えてください。
◆障がい者歯科を受診する患者さんは通常、何かしらの障害を持っています。例えば、知的障害や発達障害、自閉症、脳性まひ、脊髄(せきずい)損傷、脳血管障害の後遺症などです。
−歯の治療そのものに、一般歯科と違いはありますか。
◆違いはありません。虫歯や歯周病の治療は同じです。ただ、その治療に至るまでの経緯に違いがあります。
−どういう点ですか。
◆それぞれの患者さんが持つ障害について特性を知り、それを把握したうえで、歯の治療にあたらなければならない点です。
−どのようにして特性を把握するのですか。
◆患者さんはまず、電話などで診療の予約をされます。その際、障害についてどのような診断を受けられているのかとか、障害者手帳の種類などを聞きます。また、これまでに一般歯科を受診されている場合、その時にどのような問題があって、治療ができなかったのかなどについて尋ねます。そういったことを把握したうえで、予約を取ってもらいます。
−電話だけではなかなか分からないことがありませんか。
◆そのため、病院に来てもらったとき、最初は歯の治療の前に、問診とともに障害の内容を確認します。患者さん本人だけでなく、家族からも話を聞き、それぞれの方に合ったプランを考えます。患者さんの障害の内容によって違いますが、何回も来てもらい、歯科医師や施設に慣れてもらうことも必要になります。特に自閉症の患者さんは、こだわりが強いことが多いです。ここの病院には色がそれぞれ違う診療台が三つありますが、色にこだわりの強い自閉症の患者さんの場合、毎回同じ色の椅子に座ると落ち着いて治療を受けられます。
−診療に当たる歯科医師は歯の治療の技術だけでなく、障害一般への知識が問われますね。
◆その通りです。このことについて、実は関係者による取り組みがあります。歯の治療をする際、障害を持っている方のように特別なニーズ(スペシャルニーズ)に対応できる歯科医師を養成するため、研修や研究などを「日本障害者歯科学会」がしています。学会では障害者歯科の臨床経験を修了する他、実習を含む救急蘇生講習会を受講するなどの一定の要件を満たした歯科医師を認定医にする制度を実施しています。私も認定医です。
−日本障害者歯科学会について教えてください。
◆1970年代から学識者らによる日本心身障害児者歯科医療研究会が活動を始め、その流れを受けて1984年に日本障害者歯科学会は設立されました。2003年から認定医制度を始め、現在の認定医は約900人になっています。
−ところで歯の治療は一般の人でも苦手な人が多いと思います。障害を持っている人の場合、どのような工夫をされているのですか。
◆例えば、精神的な障害を持つ人の場合、以前にがんばって治療を受けた時の恐怖感を覚えているケースがあります。また、全く歯科治療が初めての人もいます。そこで歯科治療について少しずつ理解してもらうことから始めます。
−方法は。
◆治療の順番を、イラストや写真で示したカードを使うことがあります。また、ホワイトボードに文字で書いて説明することもあります。それで本人が納得したら、診療室に入り椅子に座ってもらいます。子供の場合、安らげるよう人気アニメのキャラクターのクッションを置いたりします。
−歯科診療を実際に始めるまでが大変そうですね。患者さんの障害の程度によって違うでしょうが、この納得してもらうまでに、一般的にどのくらい時間がかかるのですか。
◆時間のめどはなく、できるようになるまでですね。緊急度や家族の要望、歯の状態によっては早くすることがあります。虫歯が全くなく診療が苦手な人の場合、できるようになるまで何回でもやります。一方で虫歯がたくさんあり早く治療しなければならない人だと、体が動かないようにして始めることもあります。体が動かないようにするのは急に動くと患者さんが危険なためです。
−その他に安全面を考えてされていることはありますか。
◆全身麻酔をすることがあります。このときは専門の麻酔科医が立ち会っての治療となります。
−身体的な障害を持つ患者さんの場合、どのような苦労がありますか。
◆ここの病院には、脳血管障害の後遺症などでリハビリをするために入院している患者さんがいます。そういった方が歯の治療をするため、来ることがあります。移動は車椅子で、診療台に移る際、介助が必要になります。私たちは患者さんの体のどこにまひが残り、どこなら動かせるかを把握したうえで、動く時の手伝いをします。人によっては座った時の痛みを緩和するため、椅子にクッションを置くなどの工夫をしています。
◇一般の歯科で受診困難でも 障害の特性、把握し受け入れ
−こちらの病院で障がい者歯科が始まったのはいつですか。
◆昭和61(1986)年4月からです。
−担当の歯科医師は何人ですか。また、受け付けている曜日は。
◆常勤の歯科医師が2人で対応しています。曜日は月曜日から金曜日までで、完全予約制です。
−利用者はどのくらいですか。
◆1日平均で約40人の患者さんを治療しています。
−予約状況は。
◆現在は1カ月以上先まで予約が入っています。香川県全域から患者さんが来ています。
−一般歯科で診療がうまくできなかった患者さんやその家族にとっては、障害の特性に応じて治療をする障がい者歯科が人気になっているようですね。
◆そうですね。ただ、ここで一度治療ができた患者さんは、その後の歯の管理については、それぞれの地域の一般歯科で診てもらうことが大事と思います。
−こちらから患者さんを一般歯科に紹介するケースはあるのですか。
◆あります。入院していた患者さんが退院した場合、地元の一般歯科に連絡し、治療の続きを診てもらったりしています。もちろん、こちらでの治療が必要な場合は診療しています。
−落ち着きがないなどの行動を取っていますが、精神的な障害を持っていないような患者さんが来ることはありますか。
◆確かにそういう患者さんが来ることもあります。ただ、何らかの障害を持っている患者さんを専門に診るのが、障がい者歯科の役割と考えています。
−どういう患者さんに来てほしいと思いますか。
◆自閉症などの診断名を持っていて、歯の治療をしたいが、一般歯科ではどうしてもうまくできない。そういう患者さんに、来ていただきたいですね。
−歯の大切さについて改めて教えてください。
◆歯周病は進行したら糖尿病が悪化したりするなど、口の中の病気で終わりません。放置していると大変なことになります。全身の健康のための入り口と考えてほしいです。歯磨きはなるべく毎食後にしてください。ごはんを食べたお茶わんを洗わず、次の食事のごはんを入れませんよね。歯磨きもそれと同じように考えてもらえればと思います。
毎日新聞 2015年04月10日 大阪朝刊