「私は片目障害者ですが、視覚障害として認定されないことは『人権問題』です」
広島県の男性 O(オー)さん(84)からお手紙をいただきました。このコラムコーナーの 「片目失明なのに障害認定されず…重要な問題提起に、説明も反論もなし」 を読んでくださったそうです。
読者のみなさんには、そもそも、人間にとって、目や耳や手足は一対でそろって初めて健常な機能を発揮する、という基本には賛同いただけると思います。
身体障害者手帳の交付を決める障害者認定基準はどうなっているでしょうか。たとえば、 片方の腕の機能を失ったら2級、片方の足の機能を失ったら3級に認定されます。
でも、目と耳については、片方の機能を失っても、すぐに障害者の認定には該当しません。
日本の身体障害者福祉法は、視力や聴力に関しては細かな規定を設けていて、その数値に合うかどうかで判定します。たとえ片方の目や耳がほとんどその機能を失ったとしても、それだけでは「障害」とは認めないのです。冒頭に記した基本を無視しています。
片方の目だけで無理すれば…頭痛、肩こり、不安、不眠にも
私の専門である眼科の視点から、もう少し詳しく解説しましょう。距離感や奥行きの感覚は、両目がちゃんと働いて、初めて得られるものです。専門用語では「両眼視機能」といいます。
もしも、片目だけで、両目で見ている人と同じレベルで何かを見ようとするならば、その片目には過度の負担がかかります。見続けることができる時間は限られる上、眼痛、頭痛、肩こり、悪心(気分が悪くなること)など眼精疲労の症状も出てきます。
無理やり続ければ、やがて抑うつ、不安、不眠などの精神症状も出てくるでしょう。
でも、こうした実態は、職場ではなかなか理解されません。「仕事が遅い」「能力不足」などのレッテルをはられたり、「飽きっぽいやつ」「サボリーマン」などの悪口を言われかねません。
Oさんのお手紙ではさらに、「法における差別」を訴えています。
一例として、「深視力障害により自動車運転免許取得が一部制限されており、職業選択の自由の侵害につながる」と述べています。
深視力検査は遠近感を調べる検査です。本当に必要な検査であるのかは別にして、大型免許や普通二種の運転免許の取得や更新時に課されています。両目でみれば遠近感はつかめても、片眼視(へんがんし)ではなかなか難しいでしょう。
ところが、「片眼視のハンデは慣れることで克服できる」などという専門家もいるようです。その見方には、どれだけの根拠があるのでしょうか。
わずかな錯覚や間違い、疲労度でも…今後の研究が必要
実は、両目で見られないことで生ずるわずかな錯覚や間違いや、または両目で見る時との疲労度の差が、車の運転だけではなく、日常生活にどれだけ影響するのかを検証する研究は、あまり行われていません。
今後は研究が必要だと思います。もし「片目だけでも慣れれば大丈夫」という結果になるならば、訓練方法を開発して、ハンデにならない対策をとるべきです。
一方、もし「両目でみている人よりも、生活上の問題が大きい」となれば、細かな数値による判定を行わなくても、障害として認定するように法改正をするべきではないでしょうか。
片目の生活で不自由さを強いられ、周囲にもなかなか理解されず、つらい思いをしている方々は、喜んで研究に協力してくれると思います。
(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長) 読売新聞