障害者の働く場所がどのように確保されるべきか――。依然として難しいこの問題について、改めて課題が突きつけられたのが、「障害者就労継続支援A型事業所」をめぐる一連の問題である。
特に大きく報じられたのは、2017年7月末に、岡山県倉敷市にある5つの就労継続支援A型事業所が一斉に閉鎖され、利用者225人が突然、職を失った問題である。
その事業所を運営していたのは一般社団法人「あじさいの輪」と、その理事長が運営する株式会社。チラシの封入や軍手の補修といった業務をしていたが、経営が苦しくなり、給与を払えなくなったとの理由で閉鎖にいたった。
助成金の利ざやで儲けていた
そもそも「就労継続支援A型事業」とは、「障害者総合支援法」に基づき、通常の事業所に雇用されることが困難な障害者に対し、生産活動の機会を提供する事業所のこと。
一般企業への就労を目指す就労移行支援と異なり、その事業所に継続的に通所することを想定した就労継続支援には、A型とB型の2種類がある。
B型は通常、最低賃金を下回る額しかもらえず、雇用契約も結ばない。一方、A型は最低賃金を保証し、事業所と利用者は雇用契約も結ぶ。つまり、より一般の就労に近い通所を前提としているのだ。
だが、今回の岡山の事業所閉鎖の背景には、この就労継続支援A型の運営が「不自然な障害者ビジネス」と化していた現状があった――。
事業所には通所する利用者1人当たりの計算で、国から助成金が出る。たとえば、時給800円の利用者が1日に2時間の労働しかしなかった場合、1600円を支払うが、その際に国からも1日当たり、たとえば6000円が支給されるシステムになっている。
その利ざやで運営者が利益を得る、というビジネスモデルになっていったのだという。
障害者の通所施設では、そこで生産した商品や請け負った仕事によって得られる利益から障害者への賃金を払うべき。ところが、実際にはそれらの仕事でほとんど利益があがらず、助成金で運営される事業所がかなり多いのだという。
事業所の7割は助成金頼り
もともと岡山県は、精神障害者の就労に関して、古くからあった「職親制度」や「精神障害者社会適応訓練事業(社適)」などの制度の下、かなり進んでいた地域だった。
これらは国からの助成金が乏しい時代から続いていた。しかし、助成金が支給されるようになると「それなら……」といい加減な業者も参入してきたという。
前出の岡山の事業所が立ちゆかなくなった背景には、運営が不適切な場合は、厚生労働省が指定の取り消しをすることも視野に入れ、運営状況の監督を強化してきたことがある。
就労継続支援A型事業所は全国に3000カ所以上ある。そのうちの7割は、事業活動の利益だけでは利用者の賃金をまかなえず、助成金頼りの運営になっているのが実態だ。
適切なサポートによって、障害者でも利益の出る商品やサービスを生み出すことができるはず。だが、現実にはうまくいかないところが多い――。
ある程度の助成金頼りは仕方がないのかもしれないが、福祉とビジネスはどのようにすれば両立できるのか? 障害者の通所施設にも経営努力が求められている。
里中高志(さとなか・たかし)
精神保健福祉士。フリージャーナリスト。1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉ジャーナリストとして『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。