受け入れには課題も
障害者が農業分野で活躍する「農福連携」の動きが茨城県内で広がり始めている。農業の担い手確保、障害者の工賃向上と双方にメリットがあり、県のマッチング機関への取引依頼も年々増えている。ただ需要はあっても契約が成立するには、受け入れ態勢や適した作業の選定など課題もある。(報道部・戸島大樹)
■予想以上 「少しずつ作業にも慣れて楽しい」。今月8日、水戸市元石川町の照沼農園。水耕栽培用のハウスで、障がい福祉サービス事業所「たけのこ」(同市)に通う3人が、ベビーリーフの定植や包装作業に精を出していた。
同園は今夏から市内二つの障害者施設と契約し、農作業を委託。施設の利用者は月、水、金曜の週3日農場を訪れ、同行する施設職員の指示のもと午前中の3時間働く。
園側が障害者を受け入れたきっかけは規模拡大。パートを雇おうとしたが確保できず農福連携に活路を求めた。照沼洋平代表は「最初は難しいと思ったが、予想以上に仕事が早く驚いた。今は毎日来てほしいほど」と貴重な戦力として信頼を寄せる。
■県も後押し こうした農福連携の動きを県も昨年度から本格的に後押ししている。
施設を対象にした農作業の体験会を企画し、企業と障害者の橋渡し役を担う県共同受発注センターには「農福連携アドバイザー」を配置。受け入れ農家に初期の工賃を補助する制度も設けた。
今月6日に日本農業実践学園(同市)で開いたセンター主催の体験会には、県内5施設から利用者と職員21人が参加し、ミツバの苗植えと出荷前の調整作業を学んだ。
参加したNPOひまわりの家(同市)は本年度、就労継続支援B型事業所を立ち上げたばかり。工賃向上を模索しているという責任者の江原友美さんは「一つ覚えればコツコツやる子が多いので、うちでもできるかもと思えた」と関心を示した。
同学園の籾山旭太学園長は本年度から受け入れている障害者を「パートナー」と呼び、「農地がどんどん余っていっている状況。障害者とどう結び付くか問題意識を持って取り組んでいる」と話す。
県によると、同センターでは本年度、農作業の引き合いが37件(10月末時点)に上り、すでに昨年度1年間のほぼ2倍に増加。実際に契約が成立したのは17件(同)で、全契約の1割ほどだが、増加傾向にある。
■高まる意識 施設側の意識の高まりの背景には、障害福祉サービスの報酬改定もある。
運営を支える基本報酬は利用定員によって決められていたが、2018年度から平均工賃に応じて設定されるようになり、単価の高い施設外の就労先を開拓する傾向が強まっている。
県内のB型事業所で働く障害者の月平均工賃は1万3198円(17年度)で全国45位。時給換算すると200円に満たない。一方で施設が農作業を請け負う場合、時給の相場は500円程度。単価の低い内職作業より収入は増える。
ただ、マッチングの成功には、施設職員を同行させる態勢や農家側の受け入れ準備のほか、障害の程度に適した作業を見極められるか、通える範囲で仕事を確保できるかなど課題も多い。
仲介役の同センターは全ての農業者のニーズには応えられていない状況といい、コーディネーターの山口健俊さんは「体験会などを通じて『やってもいいかな』と思う施設を増やしていきたい」と話す。
農福連携の研修会で、出荷前のミツバの調整を学ぶ参加者=水戸市内原町
2019年11月17日 47NEWS