ダウン症や自閉症など知的障害がある人やその家族にも旅行を楽しんでもらおうと、宿泊を歓迎する民宿がある。美浜町松原の「なかよし家(や)」。家庭的な玄関では女将(おかみ)の中村久美子さん(71)と、「たまちゃん」ことダウン症の三男、環(たまき)さん(32)、そしてたまちゃんが大書したユニークで迫力ある書道作品が出迎える。久美子さんは「気楽にたまちゃんに会いに来て」と呼び掛けている。
大きな声を上げてしまったり、間違って他人の部屋を開けてしまったり。ホテルや旅館でのトラブルを恐れ、気疲れしたり、旅行を諦めたりする知的障害者の家族は多い。
海水浴場がすぐ近くにあるなかよし家では気兼ねなくくつろいでもらうため、知的障害者には貸し切りで対応するなどの配慮もする。机の上で跳びはねたり、炊事場をのぞいたり。知的障害のある子どもらは思いのままに行動するが、久美子さんたちにとっては慣れたこと。障害に理解のある中村さん一家に囲まれ「田舎の祖父母の家に来たみたい」と家族たちもゆっくり過ごしているという。
知的障害者の宿泊に力を入れるのは「障害があっても外に出て、社会性を身に付けるべきだ」との思いから。出産直後、環さんのダウン症が告げられ、入院することになった時は「不安でどん底」だったという。
しかし五十日後、退院するわが子の笑顔を見て「後悔しないようにやっていこう」と決めた。旅行にも積極的に出かけ、小中学校も地域の学校に通わせた。「知的障害は見た目だけでは理解されない。だから、社会に出て行って知ってもらう必要がある」
環さんの日常は、次男の昇さん(43)が作ったホームページ「たまちゃん 地域の中で生きる」で発信している。これを見た障害者の親が、抱えている悩みについて相談のために訪れることも多い。
環さんは現在、美浜町や敦賀市の障害福祉サービスの事業所で働きながら、休みの日はなかよし家でビール運びや食事の片付けなどに精を出す。「たまちゃんに会いたい」と何度も訪れる知的障害の仲間は多く、海で遊んだり、食事をしたりして交流を深める。環さんは「(仲間たちと会うのは)楽しい」と満面の笑みだ。
久美子さんは「泊まりに来る知的障害のある人は、昔からの知り合いみたいに親しみを感じる。なかよし家に泊まったことが、社会に出るための一つのステップになれば」と話す。
なかよし家は一泊二食付きで八千円(税別)。子どもは七千五百円(同)。玄関や広間には環さんが大筆で書き上げた書道作品を展示。「ビール」「お酒」など、大胆な筆致が宿泊客を楽しませている。(問)なかよし家=0770(32)1466
知的障害者の宿泊を歓迎する(左から)中村昇さん、環さん、久美子さん=美浜町松原のなかよし家で
2019年10月16日(木) 中日新聞
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます