兄弟姉妹に障害の当事者がいる人たちが「きょうだい(きょうだい児)」と呼ばれることがあります。その中には、障害がある弟がいることで周囲から冷たい視線を受け、結婚や出産を巡る葛藤を抱えながら、前へ進もうとする人もいます。
「自分の中の優生思想」と向き合う
強制を含む、障害者への不妊手術を認めた「旧優生保護法」を巡り、仙台市内で昨年6月に開かれた裁判の集会。埼玉県から駆けつけた藤木和子弁護士(36)は、詰めかけた参加者にこう語りかけました。
「私には耳が聞こえない弟がいます。そのために私も周囲から差別を受け、結婚できるのか、子どもを持てるのかと、ずっと悩んできました」
藤木さんは昨年5月、不妊手術を強いられた障害者らが各地で国に損害賠償を求めている裁判の弁護団に加わりました。理由の一つは「自分の中の優生思想と向き合うため」でした。
「不幸がうつる」とからかわれた小学生時代
聴覚障害がある3歳年下の弟は、優しくてまじめ。お互いの仕事や好きな漫画について手話で語り合い、今回の裁判も「がんばって」と応援してくれると言います。
ですが、藤木さんが小学生の時、弟に障害があることを知る友達から「不幸がうつる」とからかわれました。
弟の障害は母の責任だ、とも受け取れる言葉を母に向ける大人たちも目にしました。弟を哀れむような言動にも直面しました。
「生まれてこないほうがよかった」とまで考えた日々
社会のものさしでは障害者は生まれてこないほうがいいと思われてしまう存在で、その家族の自分も差別される側にいる――。そのころ芽生えた感覚は、成長するにつれ、自分自身の結婚や出産への不安につながっていきました。
きょうだいに障害者がいると結婚できないかもしれない。結婚できたとしても、障害のある子を産んだら母と同じような差別を受けるのではないか。そんな気持ちが消えませんでした。
「弟も自分も不幸。自分は生まれてこないほうがよかった」とまで考えました。
大学生の時に読んだ障害学の本に、障害があり、施設で暮らす女性が子宮を摘出し、結婚の夢を断ち切ったと書かれていました。
憤りや疑問はありましたが、「悲しいけれど、それも一つの選択。私も結婚や出産への望みを捨てれば楽になる」と、女性に自らを重ねました。
命に優劣をつけ、障害者は生まれないほうがいいとする「優生思想」を仕方ないと感じる自分がいたといいます。生きることはつらいことでした。
弁護士として学んだ「信念」
弁護士になったのは、自分を守ってくれる「よろい」がほしかったからでもありました。「弁護士なら、自分の存在を社会的に認めてもらえる」と考えたのです。
大学を卒業して弁護士になり、32歳で「家族の苦しみ」を理解してくれる男性と結婚しました。幸せを感じつつ、仮に、障害があるとわかってもその子を産もうという思いと、強い覚悟を持てないなら産まないほうがいいという思いの間で日々揺れ動きます。
幸せな障害者もたくさんいるけれど、障害者やその家族が苦労する姿も見てきました。今の社会では、障害者やその家族が幸せになるには人一倍の努力が必要だと感じると言います。
でも最近、自分が変わってきたと思えるそうです。旧優生保護法の裁判に関わり、原告や家族が信念を貫く姿に勇気をもらったからです。
「障害者の子宮摘出手術のことを初めて知った大学生の時、仕方ないと思ってしまった」
そう正直に打ち明けると、原告の60代の義姉は「おかしいものはおかしいと言わなくちゃ」。そのとき初めて、のみこんできた優生思想への憤りや疑問を社会に発信しようと思えました。
「生まれてよかった」と思える社会つくりたい
昨年7月、新たな一歩を踏み出しました。重い知的障害と身体障害がある女性が介護者を募集していると知り、介護の研修を受けました。仕事が休みの日に女性の家に通っています。
神奈川県の障害者施設「津久井やまゆり園」で、2016年に入所者19人が殺害された事件の被告は、「障害者は不幸を作ることしかできない」という考えを記しました。
この考えに反論する説得力のある言葉を、女性に寄り添って見つけたいと思っています。
障害があるきょうだいをもつ一人の人間として優生思想を乗り越え、障害のある人もその家族も悩むことなく、誰もが生まれてきてよかったと思える社会をつくるために。
きょうだいのコト、きょうだいのコトバで語る場
藤木さんは昨年4月、障害がある兄弟姉妹をもつ「きょうだい」4人とともに、ネットの投稿サイト
「Sibkoto(シブコト)」を設立しました(閲覧可能なブラウザーはchrome、safari、edge)。
英語で兄弟姉妹を意味する「Sibling(シブリング)」と「コト(事・言葉)」を重ね、「きょうだいのコトをきょうだいのコトバで語ろう」という思いが込められています。
2019年04月01日 withnews(ウィズニュース)
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